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寝てる後ろで……編 6 ごっそさん。

「っんま! んまー! 何これ! うっま」  真っ赤なラズベリーのムースケーキ。まんまるで艶々で、ラズベリーの甘酸っぱいムースをチョコレートのほろ苦いムースが覆い包んで、それをまた真っ赤なラズベリーのゼラチンで覆ってる。下はサクサクパイ生地。アーモンドが入ってるから香ばしくて、めちゃくちゃ良い感じにザクザクした食感もあって。 「朝からケーキって、もたれたり……」 「するわけねぇじゃん!」  昨日、食べ損ねたバースデーケーキは今朝の朝ご飯になった。もちろんこれだけじゃ用が足りないんだけど。だって、朝から運動したし。  今朝の甘くてエロくて、昨日以上に激しい、朝とは思えないイチャイチャのおかげで、俺は今日一日ベッドでまったり。だから、朝飯は和臣が焼いてくれたトーストにインスタントのスープそれとケーキ。 「体調どう?」 「んー、頭痛くなったりとかない。けど、けっこう酔っ払ってたよな。なんか色々しでかしてそうで、はっずい」  朝の目覚めはすっきり爽快。しじみの味噌汁がいいんだよな。よく父親が飲んで帰って来た翌日、インスタントだけどしじみの味噌汁飲んで、すっごいしかめっ面してたっけ。 「だから大丈夫。二日酔いとか、は」 「そっちじゃなくて」 「!」  きゅうぅん、ってした。 「こっち、痛いとか、ない?」  身体の奥のとこと、胸のとこ。  和臣が真っ直ぐこっちを見ながら、行儀悪くベッドの上であっまい朝食を食べてる俺の尾てい骨んとこを、ツンって突付いたから。 「な、なななな、ない!」  ないけど、まだ余韻ヒシヒシなんだ。そんで、キスマークがすごいからとりあえず隠すためにと着ているのはTシャツのみ。下は、まだ。  まだ、裸。  松葉崩しっつうのがさ、深いとこまでくるから、ベッドが軋む度に俺も甘い悲鳴上げて。昨日よりも感度が高まって、色が濃くなった乳首をさ、抓られながら突かれるともう自分じゃどうにもできないくらい、甘イキ繰り返してた。  ――エッチな身体。  ――和臣が、そう、したんじゃん、か。  ――そりゃ、ね。  爽やかに微笑んで、優しくデコにキスをして。めちゃくちゃカッコイイ和臣が。  ――俺とじゃなくちゃイけない身体になって欲しいんだから。  ついさっきまでめちゃくちゃ無我夢中で俺を抱いてた。 「痛かったりしたらすぐ言えよ」 「う、ん」 「そしたら、俺が薬塗ってやるから、ここに」 「っン、ちょっ、和臣」  今度はしっかりと撫でられた。直に、孔んとこ、ちょっとだけ突付かれて、小さく声が零れた。 「か、かかか、和臣!」 「あはは。もうしないって」 「んもー! やばいんだって。マジでエンドレスなんだって。ホント、甘イキ、クセになったらどうすんだよ。こんなの覚えたら……」  覚えたら、留守番が長いと切なくなりそうじゃん。仕事とか始めたらもっと忙しくて、もっと会えなくなってさ、そんで、あんな気持ちイイセックス覚えた身体じゃ、俺、一人で熱冷ますのしんどいだろ。  和臣のじゃなくちゃイけない身体になりすぎたら。 「覚えていいよ」 「だからっ」 「夜中でもいくらでも相手するし。っつうか、俺こそ、やばいからさ」 「……」 「離れらんないの、こっちだから」  そして、キスをしてくれた。触れるだけですぐに離れる軽くて朝っぽいキスを。ケーキが口に付いてたっつって、言い訳しながら。 「剣斗……」 「ン」  だから、今度は俺がキスをした。濃くて甘くて、夜っぽいキスを。言い訳なしでキスして。Tシャツの中でもじもじして見せた。 「覚えていーのかよ」 「……」 「甘イキ覚えて、寂しくさせられたら怒っからな」 「いいよ」  寂しくなんて、させないないから。そう言いながら、今度和臣がくれたのは甘くてエロいキスだった。唾液が糸を繋げるようなキスをして、ベッドの中に二人してしっとりと沈み込んだ。  ――明日? 明日はとくに用事ないけど? 「よっしゃ」  和臣からのメッセを確認して、モップ片手に小さくガッツポーズをした。今、京也さんとこでバイトの真っ最中。掃除をしてたら、大学終わりに連絡しといた和臣から今ようやく連絡の返信があった。  さぼってたわけじゃねぇよ。  これ、すっげぇ大事なミッションだから。全然、さぼってねぇし、なんなら俺の雇い主である京也さんの幸せのために絶対に良いことだからさ。  だから、さぼりじゃない。 「京也さーん、掃除終わったんで、俺、そろそろ。……京也さん?」  仕事、最近詰めてたもんな。疲れてるのかもな。いつもだったらさ、なんでわかんのかすっげぇ不思議なんだけど、がっつりずっぷりイチャイチャした後って大概、京也さんに気づかれるんだ。なんでかはわかんない。けど絶対にバレる。  はずなんだけど、今日の京也さんはどこかボーっとしてる。  今も、二度声をかけてようやく気が付いて、そんでなんでか、でかい声を上げて騒いでるし。  なんか悪いもんでも喰ったのかな。  ありえる。この人、たまにすげぇ天然だから。今度、蜜柑とか差し入れで持ってきてあげよ。ビタミン摂って、しゃっきりしてもらおう。まだまだ大型受注は残ってるし。 「そだ。京也さんはタコ焼き機って持ってます? あれ、いっすねー」  最初はさりげなく。  まだあっちにはアポ取ってないけど、明日なら空いてるって確認済み。レポート全部今日のうちに完了させたしさ。 「でも、ひっくり返すのが案外難しくて。和臣はそういうの器用ですげぇし。まぁ、仰木は当たり前なんすけど。あいつ普段から使ってるし」  さりげなぁく。 「けど、めっちゃ美味かったー」  すっげぇ美味そうに。そしたら、京也さんも食いたくなるだろ? 「んで」  さりげなぁく、だぞ? 「京也さんも次一緒にどうっすか?」  急げ急げ。この人が人肌恋しいとか言い出して、また不器用なことをする前に。 「急なんすけど、明日とか、どうっすか? 京也さん、空いてます?」 「んー」 「よっしゃ。そんじゃ、また、明日来ます。おつかれしたー」 「んー……って、ちょ!」  タンマなし。  だって、この人、絶対に肝心なとこで足踏みする気がするからさ。 「あ、闇鍋ならぬ、闇たこ焼きもいいな」  スリルのドキドキがいつしか恋愛のドキドキにっつって。いいかも。うん。二人でわさび入りのたこ焼きを乗り越えて、ついに感動のゴールイン、みたいな? 「キヒヒ、よっしゃ! タコパーだ!」  ややスキップ混じりで家路へ。 「お!」  つい嬉しくて声が零れた。やっぱ、ラッキー。 「すんませーん! レバー三本、皮三本、あとネギマ三本!」  またもやあの焼き鳥屋が珍しく値引いてて、嬉しくて和臣に連絡をした。  ――ちょうど駅ついた。  ほら、すげぇラッキー。  ――やた! 一緒に帰ろうぜ!  たった数分でもデートできんじゃん。ほんのちょっとでも早く和臣の顔見れんじゃん。  ――剣斗の顔、見てぇ。  そんなメッセがスマホに送られてきて、俺らの家路は恋に弾んで、値引きの焼き鳥香り漂ういい感じのデートになった。

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