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猫も食わない飴玉編(ひねくれネコ番外編) 2 けいけんほーふ、です。
まだ二十歳そこそこの柚葉よりもずっと大人なんで。小さくたって、ちゃんと黒字出してる会社の社長しちゃってるんで。
「やっ、バカバカ、そんなとこ、舐めっるなっ、やぁぁン」
経験豊富な大人なんで。
「あ、あぁっ……ン、やだっ」
知ってるんだ。いろーんなことを。
「あ、ンっ、ゃぁっンっ」
「京也」
「っ」
柚葉の知らないいろーんなこと。
「あっ、ンっ」
恋愛は長続きしないってこと。
二十歳そこそこじゃ知らないでしょ? すごーい好きで、「大」を百個くらいつけちゃえるくらいに好きでも、気持ちってふわっとさ、一瞬で色を失くすことがあるんだよ。
ホント一瞬。
その色を失くす一瞬が俺に訪れるか、相手に訪れるかはわからない。けど、どっちかに訪れたらもう終わり。色がなくなっちゃったんだもん。
まん丸つやつやなハート型をしてたとしても、カッスカスのパッサパサになっちゃったものは水を与えたって、何をしたって元の生き生きとした元のハート型には戻らないんだ。
とても残念なことにそういう萎れたハート型を大人の俺はいくつも持ってた。いくつもあるけれど、全部ただのカスカスパサパサ無味無臭水分ゼロだから、どれがどれだかわからなくなる。
すごく悲しいことだけれど、そういうのを大人になるまでたくさん経験しちゃったんだ。
そして、そんなカスカスパサパサをたくさん持ってたってしょうがないから、そもそもハート型を持つことすらやめてしまった。
気持ちイイこと。
楽しいこと。
美味しいこと。
娯楽だけを安易に切り取って齧ってしまおうって思ったんだ。
「あ、やぁっ」
柚葉の舌に身震いするほど感じてる。
「あっ、ン、汚いって」
「気持ちイイ? たまに指がきゅって丸まったり、開いたりする」
「や、バカ、観察するなっ、ひゃぁっン」
足の指なんか舐めないでよ。
二十歳そこそこのくせに。大人の俺を翻弄しないで。
「だって、あんたが良い顔するから。足指フェラに」
「ちょっ、してないっ」
大人の俺を困らせて、うろたえさせて、躊躇わせないで。
「してたって」
「なっ、してないってば」
「ホント、あんたは……」
怖いんだよ。
「へそ曲がり」
すごくすごく怖いの。
「わ、るかったなっ、へそ曲がりでっ、うわぁぁぁぁっ!」
ねぇ、けっこう人気のあるネコだったんだよ。そこら界隈では俺のこと抱けるのってちょっとしたステータスだったりしたのに。
「ほら、すげぇ、感じてるじゃん」
「っ!」
カウパーで濡れてる、なんて耳元で囁かれても、しごろもどろになんてならなかったんだから。
「ぁ、やぁぁ……ン」
「エッロ」
「ン、ぁ、違っ」
「下着の中でこんな音させておいて?」
抗うよりも早く柚葉の手が俺の下着の中に潜りこむ。そして、先のとこを撫でられて、甘い甘い声が零れた。柚葉の指を濡らすほど反応して感じてたんだ。ちょっと撫でられただけで蕩けそうに気持ちがいい。
扱かれてくちゅりと甘い音がしてる。
たまらなくて、柚葉のベッドの上で身悶えてしまう。
「や、バカっ、言うなっ」
柚葉の年下のくせに大きくて男っぽい手にとろける。
この手に、可愛がられるのがたまらなく気持ちイイ。もっと可愛がられたいって思ってしまう。
「ぁ、ンっ」
「顔、隠さないでよ」
「やだっ」
もっと可愛がって、もっといじめて、もっと、して、って思っちゃう。
でもこんなふうにほしがりになるのも怖いんだ。
「ひねくれ者」
そう言われてむくれてしまおうと思ったのに、足を取られて、足の裏にキスをされた。ちゅ、なんて軽やかな音をさせてキスをして、きゅんって、身体が反応してしまう。
「足指フェラすると気持ち良さそうに指を開いて閉じてってしてんの」
「っ」
「猫みたいで可愛い」
「ん、あっ、やぁっ、ぁ、あっン」
足の裏から、ふくらはぎ、膝、ゆっくり上がってくるキス。太腿の内側にはただのキスじゃなくて歯を立てられて思わず甘い声が零れた。
「下着に沁み作るくらい感じてるのも可愛いし」
恥ずかしい。こっちが年上なのにさ。余裕なんてちっともなくて、柚葉の指にいじられたくて、ほら、また勝手に身体が火照って濡れる。
「京也……」
「あっ」
いつも思う。反則じみた低い声はずるい。
「中、すげぇ……」
「あ、やンっ、指っ、ぁっン」
ねぇ、その声、やっぱ、ずるいよ。
「ン、キス、してっ」
いい声。その声に名前を呼ばれるとトロトロになる。ゾクゾクして、食べちゃいたくなるから、口を開けて齧り付くようにキスをした。
「ぁ、柚葉っ、ぁ」
「欲しい? 俺のこと」
経験豊富なはずなのに、知らなかったんだ。
「ン、ぁ、欲し、イ」
「じゃあ……教えて」
だから怖い。
「なんで、お泊り禁止なのか」
こんな恋愛したことないから。知らないことは誰だって怖気づくでしょ?
「初めの頃は泊まってた。けど、最近、追い返すだろ? なんで? 京也」
最初はね、そう、最初はよかったんだ。まだすごく、ただただすごく好きなだけだったから。
「理由、教えてくれたら、あげる。欲しいだけ全部やるから」
久しぶりに胸のとこで育ったハート型も、最初の頃は嬉しいばっかりだった。
「……ぁ」
甘くて赤くて、ピンクであったかいハート型。
嬉しいばかりだったのに、そのうち誰にも渡したくないって思うようになった。ずっとずっと、ずーっとこうして抱き締めていたいって。でもさ、今まで持っていたハートは全部もうなくなったから。もしかしたら、このハート型もさ、またあのスカスパサパサにいつかなっちゃったらって思うと、怖くてたまらないの。
「何? 京也」
「だって」
もういらないって思ったはずなのに。
「京也」
「っ」
それでも、今までのどれよりも大きくて真っ赤なこのハートだけは手放したくないとも思って。
「柚葉と……もっと」
つい、手を伸ばしてしがみ付いちゃうんだ。
「もっとずっと一緒にいたいって思うのがキリがないから」
「……」
「これ以上嵌るの……は……っ怖い、んだよ」
もうどうしたらいいのかわからなくて、そんな必死の恋愛はしたことないから怖いって思ったの。
山あり谷あり。酸いも甘いも、ぜーんぶ経験した大人のくせに、こんな恋愛は、気持ちは初めてで、怖くなっちゃったんだよ。
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