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猫も食わない飴玉編(ひねくれネコ番外編) 4 観念せい
そうなんです。小さかろうが一つの会社を担う社長をしてるんです。もう、けっこう、れっきとした大人なんです。
「?…………電話、鳴った?」
れっきとした大人なんですよ。
「ガビン」
ほら、口から出てくる擬音もちょっと年代を感じるでしょ? そんなミドル世代じゃないけどさ、二十歳そこそこの若い子とはもう経験値が違う大人なんですよ。
その大人が、二十歳そこそこのパート勤めをしてくださっているヤングからのですね、電話をすっぽかすっていう、あってはならないダメっぷりなんです。
「何、どうかした?」
「! 起きてたのっ?」
まだ裸の柚葉がベッドの中で、男っぽく笑ったりしてる。変な擬音が聞こえたから目が覚めたとか、言いながら。
「いや……剣斗君から電話が」
「あぁ、さっき鳴ってたよ」
鳴ってたの気が付いたんならそこで起こしてよ。思いっきり寝ちゃってたじゃん。しかも九時よ? 朝の九時。起きてるかなぁ、起きてないかなぁ。でも、しっかりした大人はもう起きてるでしょぉ? みたいな時間帯よ?
「シカトして平気だろ」
「いや、ダメでしょ」
「あれ、昨日言ってた。新しい革材見つけるとテンション高くなって色々発注かけまくるから、手伝うっていうか監視しないといけないかもって」
いえ、それどころか、恋人とですね、明け方まで、色々と。
「でも、あいつはあいつで彼氏とケンカ後の仲直りしてんじゃねぇの?」
色々といたしちゃってて、起きたのが十時手前ギリギリだなんていうね。怠惰な朝を過ごす、なんて大人だ、って溜め息を柚葉の枕に顔を埋めながら一つ落っことした。
「うちらみたいに」
「っン」
枕に顔を埋めていた俺の肩を柚葉が小さく齧って喘がせる。些細な刺激にだってまだこんなに甘い声が出るくらいに身体の中には柚葉がいた感覚が残ってて、肌には柚葉に可愛がられた痕跡がたくさんくっ付いてる。
たくさん、した。
昨日? 今朝? とにかく、たくさん、奥の、もっと奥のとこに、柚葉を入れてあげた。誰も入ったことのない奥に、柚葉だけ。
「どっか痛かったりしない? 何か欲しいものある? っつうか、起きれる? 起きれなかったら」
この年下の恋人だけ。
「京也?」
これって、柚葉はわかってんの? ねぇ、けっこう特別なことしてんだからね。俺は、柚葉だけ、特別扱いしてるんだからね。
「京、」
「痛いよ! めちゃくちゃ身体がギシギシするし、水欲しいし、起きれない! 足腰立ちません!」
ねぇ、わかってる?
「……ごめん、京也」
すごいとこ、入れてあげたんだから。
「ごめんって。京也。マジで」
「っ! マジでって、笑ってんじゃん! めちゃくちゃ笑ってるし! ごめんって思ってないでしょ! そんな、笑ってさ」
「だって」
そう簡単に俺のこと組み敷いていい男なんていないんだぞ。こんなふうに俺のこと好きにしていい奴なんて、他にはだぁぁれもいないんだから。
「だって、なんだよ」
「だって、京也が可愛いなぁってさ」
「は、はぁ?」
組み敷いておきながら、この手首を優しく、簡単に手折れる花みたいに扱う奴なんてさ。
「あのねっ」
「そんで? もうお泊りは解禁になったんだよな?」
柚葉だけなんだから。
「まだ、信じらんねぇ? 実家訪問までしてんのに?」
「……」
「京也のこと、マジで、ずっと好きって」
「……」
ね? ほら、めんどくさいでしょ? 昨日? 今朝? とにかく抱かれてる間、あぁぁんなに言われたのに、それでもまだこうして、素直に「うん、わかった! 愛してるっ!」なんて答えられないような奴、すごく面倒でしょ? そのうち、バイバイしたくなるかもしれないじゃん。
だって、理由なんてないんだ。
ふと不安になっちゃっただけ。
お泊りしちゃダメって言い出したきっかけだって、柚葉の寝顔をずっと見てて思ったんだ。この寝顔をいつまでも見ていたいなぁって思った。そしたら今度は、じゃあ、いつまで見られるの? って考えてしまった。そしたら急に期限を意識しただけ。いつか終わるのかもっていう期限を。
だから、またそのうちなるかもよ?
また、急にビビって逃げ腰になっちゃうかも。
そんなのはちょっと面倒でしょ?
「じゃあ、信じられるまで、ビビらないでいられるくらいまで言うよ」
「そんなの」
そのビビる理由もタイミングも、原因もわからないのに?
「信じるまで」
「……でもっ」
「だから、京也が観念して、はいはい、この男はどーしても俺のことが大好きでたまらないんでしょ。わかったわかった。はいはーいってなるまで」
「……」
楽しそうに笑いながら、半分こにしていた枕の、俺のエリアに柚葉が侵入してきた。くっつきすぎて、ちょっと身じろいだだけでもどこかしらに唇が触れる距離までやってきて、また笑ってる。
「ずっと言い続けるから」
「ずっとって」
「ずっとはずっとだろ」
「あ、あのねぇ」
「あ、あと、お泊り禁止を待たされたってももう気にしねぇから」
「はぁ? な、何、それっ」
今度は不敵に笑って、あろうことか年上の、高嶺の花と言われたこともある俺の額に可愛いキスをした。それと、上に乗っかられて、重くて、すごく。
「京也がお泊りはダメっつってももうシカトする」
すごくドキドキする。
「はいはい、わかったわかったっつって。足腰立たなくなるまで抱くから」
「んなっ! 何をっ」
年下の、二十歳そこそこの恋人がこうして笑って俺を抱き締める度にさ、ほら。
「何、恐ろしいこと言ってんの? あのねぇっ」
「はいはい。すげぇ好き」
「雑に言うな」
「雑じゃねぇって」
「雑じゃん! すっごい雑なんですけど!」
「好きだー」
ってそんな脱力感のすごいふわふわな告白なくせに、そのせいで、ほら、また、胸のとこにあるピカピカつるつる、まん丸真っ赤なハート型が、一回り大きく育っていた。
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