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柚葉(攻め)視点(ひねくれネコ番外編) 1 反対語
――今日、夜、そっち行っていい?
今頃、京也も昼飯時かなって思ってメッセージをしておいた。飯を食っていれば「いいけど」とか「どーぞ」とか何かしら返事が返ってくる。大体、毎回の返信が五文字以内に入りきるのが面白れぇって思う。決まったように、大体五文字以内。
どんだけ口下手なんだ。
けど、それがまるでへそ曲がりの猫みたいで、俺は気に入っていた。あの人のそういうひねくれてるところが。
「あーなぁ、あの旋盤でさ、加工してる部品、あれあといくつ作るんだっけ?」
「あと三つ」
「三つかぁ、先は長げぇな」
「お前、案外、不器用だよな。手芸やってるわりに」
「うるせぇな! あれとこれは別なんだよ。っていうか、仰木が器用なんだろっ」
「俺はなんでもできるから」
返事、来ないな。
「うわぁ、自信満々かよ」
飯、食ってないのか?
「なぁ! 仰木ってさ、好きなタイプってどんなん?」
「は?」
昼飯の最中、ヤンキーの見た目に反してオムライスをめちゃくちゃ美味そうに食っていた剣斗が急になんか言い出した。
「何、急に」
「あー、いや……あのお、なんつうか」
「だからなんだよ」
「いや、だってさ、ふと思ったんだよ。マメだなぁって思って。メール、京也さんにだろ?」
返事はまだないから、仕事詰まってんのか?
「なぁ、剣斗、今日って、京也んとこ行く?」
「あー、ううん。今日は休み。今、そんなに注文ないから」
「そっか」
じゃあ、あとで寄るの確定だな。
「なぁなぁ、そんで好きなタイプってどんなん?」
「…………」
にっこり笑って、無邪気だな。
多分、あれだろ。お前を好きだっつった俺が、全然タイプの違いそうな奴に惚れたから疑問に思ったとか、そんなんだろ。
「可愛いのが好きだな」
「……」
可愛いの? って、剣斗がすげぇ不思議そうに首を傾げてた。
返事は大概、五文字以内。どーぞ、とか、いいよ、とか、やだ、とか。俺にはそれ以上長くなることは滅多にない。ちなみに、普通に話してても、よく勝手にむくれて勝手に不機嫌になって、返事が五文字以内なんてことはしょっちゅうだ。
けど、絶対に返事はする。必ず。だから、その返事がないってことは。
「あー、すいません、唐揚げも追加で」
「はい」
多分また試作とか作ってんだろ。頭ン中フル回転させて。
「ありがとうございましたぁ」
そういう時、頭の中がその試作のことでいっぱいになるから、他のことが疎かになる。そんでメッセージに返信がない。そんな時は大概。
「……ったく」
ほらな。
店兼仕事場の扉には鈴がついていて、開けると音が鳴る。けど、その音にすら気が付かず、作業台を真剣な眼差しで見つめてる京也がいた。
「……おい、京也」
「! うわぁ! あっ……ぇ……柚葉? ぇ、なんで、学校は?」
「学校は? じゃねぇよ。目開いたまま寝てたのか? もうとっくに終わった。つうか、今日、昼間連絡した」
「え? ウソ?」
「っていうか、それ言いたいのこっちだよ。あんた何時間、そうしてんの?」
「え……わかんな……っていうか! なんで勝手に来てんのっ」
この調子じゃ、きっと朝からそんななんだろ。トイレで席を離れるくらいで、あとは飲まず食わず、声も出さず、それこそさ、唸るのだって忘れて、一時停止ボタンでもどっかに付いてんじゃねぇ? ってくらい、動かないんだ。
「だから行くって連絡したっつうの」
連絡寄越さないくらいはどうってことない。けど、声が掠れてる。多分、本人は気がついてないけど、身体の方はギリギリだ。そんで、ほら、怒った拍子に腹の虫も騒ぎ始めた。
「ほら、唐揚げ買ってきた」
「!」
「油、革に付いたらダメになるんだろ。ほら」
「ん、んぐ」
とりあえず、一つ、口に放り込んで。
「水も飲めよ」
「ふぐっ」
「唐揚げ」
「んぐぐ」
「そんで、水」
「ふぐぐっ……って、ちょっと、喋れないって!」
「うるさい。餌付けの最中なんだよ」
「ちょ! しかも、唐揚げ重い! 俺、男子高校生じゃないんですけど!」
「ここの美味いじゃん」
「んぐっ」
声、元に戻ったな。
「水道貸して」
油がどこにも付かないように注意しながら水道へ向かい、手を洗っていた。
手のかかる大人だ。高校生の方がよっぽど手かからないんじゃね? 飲まず食わずで仕事に没頭なんて。
手を洗い終わって戻ると、京也は仕事は一旦止めたらしく、スマホを見ていた。
「……ごめん、連絡もらってたんだ」
「いいよ、別に。剣斗から聞いて、仕事、詰まってんだろって思ったから」
「……」
「とりあえず、飯買ってきたから、食ってから続けろよ。そんじゃ」
「え、帰るの?」
「あぁ、邪魔になるだろ。あんたに飯食わせたからそれでいい」
「ぇ……あ」
好きなタイプは可愛い系だと言ったら剣斗は不思議そうにしてたけど。
「…………仕事、続きは?」
「今日、は……もぅ……平気」
案外、そんなことねぇんだ。
「もう、終い」
「……」
「なんで? まだ途中なんじゃねぇの?」
俺相手には。
「い、いいじゃん、別に」
「終いなら」
「……」
大概返事は五文字以内、けど、結んだ唇からは溢れ落ちそうなほど、俺を呼ぶ甘い吐息とか。
「な、なんだよ、柚、っ……」
ホント――。
「あ、あ、あっ……ン、やぁっ」
可愛いんだ。この人。
「や、あっ……柚葉っ、あ、あっ」
基本口下手で、そのくせ、何かの拍子めちゃくちゃペラペラ話し出して、急に勝手にイラつき出すし。
「あ、ン、激しいっ」
うん、って、返事は大概、ううんって言うし。
「あ、あ、あ、それ、やだっ」
もちろん、やだ、も、反対語。
「柚葉っ、あ、柚葉っ」
好きって訊いたら。
「京也」
「あ、っん……な、に」
「俺のこと、好き?」
「あ、あ、あ、バカ、知らないっ」
ほらな。
「でも、すごいけど? 中が」
「あ、あ、言うなって、ばっ」
身体は素直。好きと答えて、絡みついて、気持ち良さそうに前は濡れて、乳首も感じて。
「あっ……柚葉っそこっ」
ダメは良いってこと。
「あ、あ、あ、あっ」
ヤダは、して、って意味。
「あっ……ン、ンんっ、ぁ、柚葉っ」
俺の名前を呼ぶ声は蕩けて甘く。
「んっ……」
俺を引き寄せる指先はひどく優しく。
「あ、イク」
快楽にも、気持ちにも、素直なくせに。
「ンっ、京也っ」
ずっと反対語を話す、いじっぱりなんて、世界で一番可愛いだろ。
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