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柚葉(攻め)視点(ひねくれネコ番外編) 4 しわくちゃ絆創膏
綺麗な人だって最初から思ってた。
こんな男がいるんだなって思ったよ。まるで俺とは違うってさ。
会社のデカさなんて関係ない。評価の高い商品を作れる技術力がある。それで食ってる。そんなのすげぇって思うよ。畑違いだけど、毎日毎日、旋盤使って部品作ってんだ。それを常にクオリティ高くやり続けるっていうのがどんだけ難しいのか、ガキの俺にだってわかる。
そんな人が駐車場の片隅で、縁石に腰を下ろして、俺の指先に絆創膏を巻いていた。
それがさ、すげぇ下手くそで、愛おしかった。
「なぁ……」
この人は、全部一人でやってきたんだろうって思ったんだ。なんでも一人で。だから、向かい合わせで他人に絆創膏を巻いたことがないんだって。
「俺はクソガキだからさ」
「違うんだってば。そうじゃなくて、あの時は俺っ」
「いいから、話、聞いてくれ」
途中、絆創膏がくっついて寄れて、指に巻きついてる。下手くそな巻き方。でもたまらなく癒された。
「まだ全然実力どころか、そのための技術を習得する最中だから、実力以前の問題だけど。今、すげぇ必死に勉強してる。毎日部品作ってさ」
今日はメンタルガッタガタだったからこんな傷だらけだけど、普段はそうでもないんだぜ? すげぇしかめっ面で加工してるらしくて、近寄ると殺されそうって剣斗にからかってたりもするけど、あんたのお父さんは断裁機を扱う時すげぇ厳しかったって言ってたじゃん。
俺もそうありたいと思うから。
「いつか」
「……」
「いつかさ」
「……」
「あんたがプライドを持ってやっている仕事の手伝いができるようにって、マジで思ってる。前にも言ったけど、マジで」
あんたはいつも仕事のことにはプライドを持っていた。ひねくれてて、我儘ですぐに不機嫌になるし、すぐに怒るし、すぐに落ち込むあんたがさ、この綺麗な手にたくさん技術をくっつけて、磨いて、自分の鎧にしていったんだ。
「京也が誇る仕事を、手伝える男になりたいんだ」
「……」
「だから、全然頼りねぇけど、ガキだけど、俺には、いつかでいい。頼ってくれ」
上手くできないって八つ当たりしろよ。なんだよこれって、落ち込めよ。
「絶対に受け止めるから」
あんたが一人で頑張って携えてきた技術を、仕事を、全力で後ろから支えるから。
「…………てるよ」
「? わり、今の、京也聞こえなかった」
「…………」
「京也?」
「バ、バカじゃないの」
綺麗な人だって、思ってた。
こんな男がいるんだなって。
「バカじゃないのっ、こ、こんな我儘な大人なんて、放ればいいのに」
「なんでだよ」
「面倒くさいじゃん」
「そうか?」
「ひねくれてて」
「そうでもねぇよ」
「我儘で」
「それ、さっきも言った」
「お、怒りっぽくて」
「泣き虫で」
「な、泣き虫じゃないし! 今、これは泣いてるんじゃなくて、えっと、あと、その」
「可愛いよ」
「! バッ、バカじゃないのっ?」
バカじゃ困るんだ。
「バカじゃねぇよ」
バカじゃ仕事できないだろ。
「バカだけど、バカのまんまじゃあんたの役に立てねぇ」
「っ」
「絆創膏、ありがと、それから大学まで来てくれてありがとな」
艶めいた頬に曲げた指の角でそっと揺れた。苛立って適当にしか手を洗ってこなかった俺は指先でなんて触れられない。綺麗な頬が汚れないようそっと指の関節んとこで触れる。
「そんじゃ。俺、実習途中なんだ」
肩がバッキバキだ。それこそさ、京也のお父さんが扱ってた裁断機並みに危ないから、旋盤扱ってる時は常に緊張するんだけど、今日は、やたらと力んでたんだなって、肩の筋肉が張ってることで気がついた。こんなガチガチになりながらやってたんじゃ、そりゃ不良品ばっか作るに決まってるよな。
「あ、あのっ柚葉、もう試作出来上がった!」
「そっか。よかったじゃん」
いつか、あんたがその試作で苦労してる時も俺には寄り掛かれるようにならないとな。つうか、なりたい。
「ちゃんと寝たし、ご飯も食べたし、その、だからさ」
「……」
「えっと、だから」
頬、真っ赤だ。
「だから、してよ」
「……」
俺の指をギュッと握る手もあったかい。
「実習終わるの待ってる。ここで。だから」
「……」
「今日、この後、抱いてよ」
綺麗な人だって思ってたよ。
そんで、この人を抱いたことのある男は山ほどいるんだって、思った。放っておかないだろ。やれんならさ、やりたいだろ。こんな人を抱けるんなら。
上等で、極上のさ。
「抱いて、よ」
たくさん抱かれただろうけど、今、俺にくれた誘い文句はすげぇ不器用でさ。
「……柚葉」
今の技術を身につけるまでにたくさん怪我をしてきただろう指先に自分で絆創膏を貼るのは上手。一人で、ずっとそれをしてきたから。けど、他人に絆創膏を貼るのは下手。
なぁ、そんな人、愛しくてたまらないって思うだろ?
「指、そんな握られると痛いんだけど」
「! わっ、ご、ごめんっ!」
「いーよ」
必死で可愛いだろ?
「ちょっ、なんで笑ってんの?」
俺が逃げないようにって、慌てて捕まえるように、俺の指をぎゅっと握りしめて離さないなんてさ、マジで、可愛くて、つい笑ったんだ。
「お、俺! 今、真面目にっ言ってんだけどっ?」
あぁ、すげぇ好きだなぁって笑ってたんだ。
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