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ポッキーゲーム編 4 大人の階段
小さな頃って正月が待ち遠しくてたまらなかったっけ。お年玉もらえるし、なんか皆がおめでとうって言ってるからおめでたい気持ちになってくるし。けど、親戚はほとんど近所に住んでてさ、従兄弟とかもなかなか会えない遠方組みたいな、そんなレアな奴はいなくて、何か町内でイベントがあれば一緒に参加してたりしたから、正月の挨拶回り? とその後の宴会は少し退屈だった。
あっという間に正月だったわ、とか。
一年なんてあっという間よね、とか。
そんな親たちの会話を聞きながら、大人になったらそんなに一年が早く感じるのかなって……思ったっけ。俺も少しは大人になったのかな、もうあの時から――。
「……」
今、何時なんだろ。
ふと、起きたけど。
「……ん」
和臣はぐっすり眠ってる。相当疲れてんだろ。バイトも年末は人手が足りないとからしくて、よくフルシフト入らされてるし。お人好しだから断らずに全部引き受けてんだもんな……そりゃ疲れる。
「……バカ、少しは休めよな」
大晦日までフルシフトこなしてさ。少しくらい断ればいいのに。
それなのに全部引き受けて全部こなしちまうすげぇ和臣に、小さく小さく、ものすごく小さく小言を呟いてから、薄っすら見える目の下のクマに触れた。指先でほんの少しだけ。触れられて、ちょっと驚いたのか条件反射なのか、ピクンってした瞼を開いてしまうことのないように、そっと、そーっと。
全部頑張ってる理由がさ、俺だから。
もう平気だっつってんのに。
もう充分だっつってんのに。
俺なんかと付き合ったら後悔するからやめとけ、なんて言い出すくらい、和臣は自分の過去を、ハッテン場なんかで気を紛らわしていた頃の自分を気にしてる。
気にする必要なんてないのにな。
消そうとなんてしなくていいのにな。
消えないし、消さなくていいんだ。それもこれも踏まえて、和臣なんだから。
「よ……いしょ……と」
起こさないようにベッドから抜け出して、確か鞄の中に入れっぱなしのスマホを探した。帰ってすぐ、和臣に跨ったから、鞄の中のはず。
「あ、あった」
中を見れば、たくさんの「あけおめ」メッセージが入ってた。それにはあとで返信するとして……京也さんに。
「…………っぷ」
つい笑った。
やっぱ気にしてたか。さっき、和臣がハッテン場でポッキーゲームをしてたって話してくれたこと。
――全部聞いてよー。まだ話の続きあったんだけど。
そんなメッセージが俺が飛び出してからすぐに入ってきてた。でも、あそこからはもう和臣見つけて引っ張って押し倒して……って流れでスマホ見てなかったから。
もう三時過ぎだから返信しても返事は返ってこないだろうな。っつうかむしろ安眠妨害にならないかな。でも、仰木とあの後会うって言ってたからな。
とりあえず返信をしておいた。明けましておめでとうございますっつって。それから、全部聞かなくてもわかりますって。その返信を送り終えた時だった。
「…………剣斗」
ベッドに俺がいないことに気がついた和臣が寝ぼけながら俺を呼んでる。
「今、三時だよ。もう少し寝てようぜ」
完全に起こしちまわないように急いでベッドに潜り込むと、待ち構えていてくれた腕に大事そうに仕舞われた。
「……冷たくなってる」
「そ?」
「……あぁ……」
そして、数分で冷えた俺の肩をぎゅっと抱きしめたまま、懐の中に閉じ込められたら、頭上で寝息が聞こえた。
「……おやすみ」
もうその挨拶に返事もこないくらいに熟睡してる。
最後まで聞かなくてもわかる。どんな気持ちで退屈なゲームでやり過ごしてたのか。その頃の自分を今どう思ってんのかくらいは。ハッテン場の澱んだ空気の中で何をしてたのか。その時、どんな気持ちだったか。
そんで、今、どんな気持ちを持ってるのか。
「あったけぇ……」
俺も、少しは大人になったのかな。
あの時からさ、まだ俺は実家にいた頃から振り返ればあっという間な気がした。泣いたことも、怒ったことも頭突きしたり、でっかい花束抱えたり。なんか色々あったけど、あっという間だった。けど――。
長いようにも感じた。色々あって、こうして和臣の隣で眠っている今に辿り着くまでの道のりは長いようにも感じた。距離感みたいな感じかな。あれに似てる。すごろく。その都度その都度、色々なマス目に止まってあれこれしてさ。ふと気がつくと、わ、もうここまで進んだんだって。三歩進んで二歩下がるをしながら、自分が辿った距離に驚く感じ。だからまだ少しガキなんだ。
「人生ゲーム、まだ実家にあるかな」
よく退屈な大人たちの会話に少しだけ耳を向けながら、従兄弟たちと人生ゲームしたっけ。
まだ少し、ガキだから。その人生ゲームを引っ張り出して、久しぶりに従兄弟たちとやりたいなぁって考えてた。もしも、いらなさそうだったら持ってこようかな。和臣と京也さんたちと一緒にやってみてぇかも。
うん。
まだ、もう少しガキのままがいいな。
そんでゆっくりさ。
じっくり、和臣と大人になっていきたい。
「また明日……和臣」
二人で一緒に、さ――。
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