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真夏のプール編 4 バ、の付かないただ溺愛カップル

 ―― 多分、和臣はきっとプールめちゃくちゃ楽しみなんだと思うよ。  そうは言ってたけど、本当に?  だって、行かないって言ってたんだぜ?  ――デートでプールグッズ買うの?  そうなんだけど。まだ一緒に暮らすようになったばっか。それに今まで夏っぽいレジャーとかあんまりしてなかったし。だから、色々足りないんじゃないかってことになって買うだけでさ。  ――楽しんできてねぇ。  まぁ、そこは、チケットもらったんで、思いっきり楽しむけどさ。そんでお土産を二人に買って。 「!」  今日、バイト終わるの早かったのかな。俺、少し早めに待ち合わせの場所に来たのに、もう、いる。  まだ、どきりって、するんだ。  なんだろ。  本当、すげぇかっこいい。ただ、待ち合わせの場所に立ってるだけ。本人はカッコつけてるわけじゃなくて、まだ来ないだろうって思ってのんびりしてる。真っ直ぐ前を見て、夕涼みにはまだならない湿った夏の風も気にせず涼しい顔をしてるだけ。  今日はデート。  つうか明日、プールに行くのに、水着しかなくて、ほらあるじゃん。でかい浮き輪。ああいうのがないから、それじゃあ買いに行こうかって話してたんだ。ちょうどでかい駅にあるビルの上の階にスポーツ用品とかレジャーグッズを売ってるフロアがあるから、そこがいいんじゃないかって。  買いたいのは浮き輪と、それからラッシュガード。  日焼けは別にいいんだけどさ。  和臣が痕、つけるから。  上半身裸になれなくなった。  和臣が、乳首んとこにキスマ、つけるから。 「……」  あ、スマホ見た。  俺からの連絡ないかなって探してる?  って、おい、なんか声かけられたぞ。  おーい。  何か、女が声かけた。  ゲイなのに、本当にマジで女受けが半端なくいいんだよな。大学でも全然囲まれてるし。駅前、待ち合わせによく使われてるところだからって、そう女から声かけられなくね? チラチラってさ、イケメンっつって見てくるくらいなら有り得るけど、声をかけられるって相当じゃね?  そんな和臣がその女に何か一つ、二つ、喋って。  女の方は食い下がってんのか。まだそこにいて、背も高い和臣を見上げながら、にっこり笑ってる。  すげ。  たまに、まだ噛み締める。  俺、あそこにいる、あのかっけぇ大学生と付き合ってるって。  俺の片想いの人。  だったけど。  今は、俺、あの人と両想いなんだって、感動したりする。  今は恋人で、ナンパされても、そのナンパしてきた女の方がけっこう可愛くても、あの人は俺とセックスするんだって。  俺は、あの人と、一昨日も、この前の水曜日も、月曜日も。 「!」  セックス、したんだって。 「っ」  和臣が俺に気がついた。  それから女の方に手を振って、こっちへ歩いてきてくれる。  すげぇ優越感。  すげぇ、嬉しい。  踊り出しそう。  なぁなぁ、あの人、俺のこと選んだぜって言って回りたい。ほら、こっち来たって、騒ぎ立てて世界中に見せびらかしたい。 「何してんの。こんなところに突っ立って」  俺のとこに来てくれたって、飛び跳ねたい。 「声かけられてたとこ、見た?」 「まぁ……」 「機嫌悪く」  なるわけねーじゃん。 「なってない?」 「……別に」  だって、俺のとこに来てくれたんだから。 「道聞かれただけ」  俺の機嫌取ってくれるんだから。 「まぁ、それとは別に待ち合わせなら、ご一緒にって言われたけど」 「……ふーん」 「恋人待ってるんでって言ったよ」  飛んで跳ねて。 「だから気にしなくていいよ」  踊って、はしゃいで。 「ほら、デート、晩飯も外にする?」 「うちがいい」 「そ?」  大好きでたまらない恋人の首んとこにしがみついて離れたくなかった。だって、ほら、さっき和臣に声かけた女がこっちめっちゃ見てる。恋人と待ち合わせっつってた。そんでその和臣が歩み寄って行っちゃったの、俺んとこ。金髪でオールバックのヤンキー風情の柄悪そうな男んとこ。信じらんねぇ? びっくりした? そうだよ。このすげぇイケメン、俺のだよ。 「浮き輪もいいけど、ボディボードみたいなのもいいよな。どっちにしようか」  いいだろ?  羨ましい? 「剣斗?」 「あ、うん」 「やっぱ、ご機嫌斜めじゃん」  斜めな訳あるかよ。 「キスはさすがにできないけど、ほら」 「!」 「機嫌直して」  そう言って和臣が手を差し出した。  手、繋いで行こうって。  こんな駅前で、すげぇたくさんの人が行き交ってて、さっきナンパしてきた女も見てる場所で、手を繋いでくれる。 「どっちも買っちゃおうか」 「一つでいいって」 「そっか? せっかくだから」 「二人で別々に使うのやだ」 「……」 「一緒に使いたい」  そこで和臣がじっと俺を見つめた。じっと見つめて、ふわりと微笑んで、繋いだ手を指先を絡めるようにした。 「可愛いこと言うじゃん」 「! べ、別にっ」 「じゃあ、すごいでかい浮き輪にしよう。二人で一緒に入れるようなの」 「あぁ」  それからラッシュガードは絶対に買わないと。 「晩飯、どうするかぁ」 「この前、京也さんに教わったの作りたい」 「へぇ、京也って料理するんだ」 「仰木に作ってもらってばっかだからって」 「っぷは、溺愛バカップル」  ラッシュガードないとプール入れねぇ。 「うちらは?」 「んー?」  今日も、したいから。セックス。 「うちらは、バ、の付かない、ただの溺愛カップル」  和臣の、すげぇ欲しい。だから晩飯はうちがいいし、浮き輪買ったら早く帰りたい。  早く帰って、和臣と、セックス、したい。

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