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真夏ののプール編 6 夏だ! プールだ! 独占欲、だ?
最初はあんま乗り気じゃないけど、俺に合わせてくれたのかなぁとか。
「…………さすがにシュノーケルはいらないんじゃね?」
思ったんだけどさ。
「……そうか?」
「プールだし」
意外に乗り気、っぽい、かな。
「潜水禁止じゃん」
「確かにな」
ポツリと呟いてから頷くと、プールっつうか小旅行? みたいな鞄の中に今仕舞い込もうとしていたシュノーケルを取り出した。つか、シュノーケルなんて、ガチ海水浴グッズ持ってるんだな。それ、昨日、浮き輪とか買った時に一緒に買ったわけじゃねぇじゃん? それがレジに一緒に持ってこられたら、そこで俺が止めてるし。だから、そのシュノーケルは和臣のもとから持ってた自前品ってわけで。
そこがまず意外だった。なんか、和臣ってなんとなくインドア派のイメージがあるっつうかさ。外で汗かいてる感じが想像つかないとこあるから。
「さ……そろそろ行くか」
「あ、うん、けど、早くね?」
「オンシーズンは一時間早くオープンするらしいから」
そんなことも調べてくれてたんだ。
「今からで電車八時十五分のに乗って、送迎あるらしいから、それで……オープン、少し前かな」
電車の時刻まで調べてくれてた。
よかった。
「行くぞー、剣斗」
「あ、あぁっ」
そこまで渋々じゃないっぽい。
「早めに行って、休憩の陣取りするぞー」
「あ、あぁっ!」
渋々どころか、結構ノリノリっぽくて。誘ったはずの俺が小走りで駅へと向かう和臣のことを追いかけていた。
「うわぁ、すげ……」
「まぁ、夏だしな」
まさかこんなに混んでるなんて思わなかった。
すっげぇ人。駅から送迎バスもまぁまぁ混んでた。けど、時間が早かったからなのか、一回、送迎のバスに満員で乗れなかっただけで、次の送迎には乗れた。
で、その送迎を降りたら、すでにレジャープール前の駐車場はほぼ満車になってた。これ、何千台停められるんだろ。そんで、ゾロゾロと吸い込まれていくように、駐車場からプールの方へと人が歩いている。でかい浮き輪をすでに膨らませておいた人もいたし。ガチのクーラーボックス持ってる人もいた。
あ。
シュノーケル持ってる人もいて、ちょっと見ちゃった。
和臣と同じこと考えた奴いたって。
持ってたの、小学生男子だけど。
他にも、それ車に乗せられんだなって感心するくらいにでかいサメの浮き輪を抱き抱えてる人もいた。
「すごっ」
そんな、うちらと同じか、それ以上に遊び尽くす気満々の人がぞろぞろ歩いてると、こっちも自然と急足になってくる。もしかしたらもう満員になっちゃうじゃないかって気がして。
大丈夫だよ。プールは逃げないからって言いそうな和臣も心なしか歩調がせわしなくなって。
俺たちは「ほらほら、早くプールで遊びたい」そんな気持ちに押されながら、みんなが目指すプールへと急いだ。
「場所、あっかな」
「どうだろ」
中はもっとすごかった。
人、人、人。びっしり人がすでに自分たちの休憩エリアをレジャーシートで陣取っている。それこそ、パッチワークみたいに、カラフルで形もバラバラなレジャーシートがぎっしり並べられていた。
「あ、あっちはまだ比較的空いてそうだ」
「マジ?」
和臣が指差した方向へとりあえず大急ぎで向かった。
これ、まだ続々と人、来るけど、溢れるんじゃね?
俺たちが到着したのは送迎バスを一本乗り損ねたこともあって、オープンしてから十分くらい経っただけ。それでこれだけ人がいるんだ。会場が開いた瞬間ってどんなだったんだろう。もう一目散にこれだけの人がマジダッシュでゲート潜ってたら、すげぇ光景だっただろうな、なんて考えながら。
「よかったな。場所まだあって」
「うん」
どうにか俺たちもレジャーシートを広げて、パッチワークのパーツの一部になれた。
室内プールエリアの端のとこ。けど、ここからなら屋外プールへも近くて、むしろ、あの入ってすぐの休憩エリアよりも行き来はしやすいかもしれない。休憩エリアの利点はぐるりと今やってる夏イベントが韓国で、フードの屋台の韓国料理をすぐに買いに行けるってことくらい。
「そしたら、ここに荷物だけ置いて、コインロッカー行かないと」
とりあえず場所取りだけしたんだ。まだ貴重品も持ってるし、着替えもしないと。下はとりあえずハーフパンツみたいに使える水着だけど、上はただのTシャツだからさ。
広げたシートはそのままにして、来た道を戻ると、まだまだ人がゾクゾクと入ってきているゲートの混雑が見えた。もう今から来場じゃ休憩場所ないんじゃね? なんて横目で見て、考えながら、俺たちはコインロッカーへと向かう。
貴重品は厳重そうな貴重品用ロッカーに入れられて、一日に何度でも開け閉めが可能になってた。
更衣室にはシャワールームも個別になってるのがいくつもあったし、ドライヤーとかもちゃんと常備されてる。そのシャワールームから直結してる更衣室は綺麗で広くて、ど真ん中には余裕で大の字で眠れそうなソファがあった。
「あ、俺、上だけ着替えてくっから」
「あぁ、じゃあ俺は浮き輪膨らましてくるから」
「あんがと」
まずはウォータースライダー全種類制覇しないと、だろ。並ぶかな。
流れるプールも楽しみだし。
波のプールも行きたい。
飯どうすっかなぁ。
早めに買わないとすげぇ渋滞しそうだし。
でもすっごいワクワクしてきた。
「お、けっこうサイズぴったりじゃん」
適当に買ったわりに。
「おー、すげ」
まぁ、黒ならなんでも言っか、って買ったけど。
「案外良い感じじゃね?」
キスマだらけの上半身はがっつり隠したし。
キスマだらけなのは、上半身だけじゃないけどさ。
「和臣?」
ちょっとでも見せられない感じにキスマがあっからさ。
更衣室を出ると、まだ浮き輪を膨らましてる最中なのか和臣はいなくて。
けど、すぐに見つけられた。
「……いた」
そりゃそーだよな。
こんだけの人がいたら、浮き輪んとこも混むよな。
空気入れのホース場にはものすごい長い行列ができていた。
「和臣っ!」
「あぁ、あ……剣斗、おま、水着」
「?」
「……なんでもないよ」
「? 和臣?」
「……」
また、ふいっと……した。
「浮き輪けっこう並びそうだな」
わかんねぇけど。
そんなわけないって思うけど。
もしかしてさ。
いや、けど、そんなんなくね? ガキじゃねぇんだから。俺じゃないんだから。そんなの和臣が持つわけなくね?
でも、だったらいいな、って。
ほら、ラッシュガードがさ、ピッタリしたやつだから。身体のライン出るじゃん? 大して、色っぽい身体月なんかじゃないけど。でも、俺がラッシュガード姿になってるの見た途端に、プイッてしたからさ。
「おー……」
だから、今また、ふいってした、少し不機嫌顔の理由がさ、独占欲。
「……」
だったらいいなぁって思った。
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