144 / 151

真夏のプール編 7 常夏に溶けそ。

 まぁ、とは言え。  俺にヤキモチなんてしても無駄なわけで。  むしろ俺の方がヤキモチしまくってるっつうの。  ほら、まただ。  男二人でプールに来てたらナンパのため、とかって決まってんのか?  遠慮なく、もう目線だけで「逆ナン」しまくってくる視線。  流れるプールで流されてると、けっこうな確率で女と目が合う。濡れ髪で色気が増した和臣に一瞬で、真っ白なほっぺたを赤くして。俺はその度に「はぁっ?」っ、そのほっぺたに向けて睨みをきかせてる。今だって――。 「眩しい?」 「!」  和臣がお日様のある方角を確かめながら、掴んでいた浮き輪をぐるりと回転させた。 「すっごい、しかめっ面」  そう言って笑って。浮き輪の上でうつ伏せで寝転ぶ俺の眉間をぐりぐりと指で押した。  ちげぇよ。  眩しいからしかめっ面してたんじゃなくて、今、和臣のことに声掛けたそうにうずうずしてる後ろの金髪に、声掛けんなよ、って無言で威嚇してたんだよ。  プールだからか?  水着だから?  なんか、貞操観念低くねぇ?  アピールすげぇんだけど。 「おーい」  もう一度睨みつけたら、バチっと目が合って、その金髪は顔引きつらせながら、ふいっと目を逸らした。  こっちは男二人でナンパしにレジャープール来たわけじゃねぇから。男二人でデートなんで。  邪魔すん――。 「な、わぁぁぁっ、っ、っ!」  いきなり浮き輪がひっくり返されて、ナンパの姿勢に威嚇することばっか意識してた俺は、ふいをつかれてそのまんまプールの水に落っこちた。 「おまっ、!」 「あはは、びしょびしょ」 「ビビっただろっ」 「あははは」  プール、最初は乗り気じゃなかったのに。  さっきはふいってしたくせに。  今は楽しそうに笑いながら俺のことプールに落っことしてはしゃいでるし。 「ほら、剣斗……」 「!」  その声に、心臓がキュってなる。  色っぽい声。あの時に似てる声。  ――剣斗、ほら、脚。  広げてと囁いて、中にくる時の声に。 「っ、な、んだよっ」 「びしょ濡れだから髪直してやっただけ」 「……あ、りがと」  もうウォータースライダーは全種類制覇した後なんだ。そんで今はのんびり流れるプールで流されてる最中。  ウォータースライダー、すげぇ楽しかったから、何回でもやりたいけど。  並ぶのも、この猛暑だとかなり根性がいるし、あれさ、グネグネ、列になるだろ? そうするとさ、定期的向かい合わせになるんだよ。男二人でウォータースライダーに乗ろうとしてる、って、女が、どっちが好み? とかつって、話してて。  だから、あの行列は危険だってことで。  今はのんびり流れるプールで流されてる。 「っ」  流され、てた。 「剣斗?」  和臣が俺の様子を伺うように俺の茶髪で、長い前髪をかき上げて、俺の瞳の中を覗き込む。  ヤバ。  見透かされてそう。今、俺が頭ン中で再生したコト。  濡れ髪の和臣。  ちょっと、色っぽすぎて。 「な、なんでもないっ、鼻に水が入った、だけっ」  今度は俺がふいっと視線を外した。そして誤魔化すために鼻先を手の甲でぐいっと乱暴に拭って。  なんか、このままだとプールの水の中から出られなくなりそう。 「す、少し、休憩しようぜっ」 「あぁ」  流れに逆らってプールの端に移動をすると、浮き輪を持ってくれた和臣が先に上がって、そこから手を差し出してくれる。 「大丈夫か?」 「へ、気」  そのまま片手で俺のことを引っ張り上げると、水をした滴らせながら、濡れたせいで長く見える自分の髪を掻き上げた。 「ちょうどだったな。シートが近い」 「あ、うん」  本当だ。俺らが敷いたレジャーシートのある辺りがすぐそこだった。  俺らから滴り落ちるプールの水もあっという間に乾いていくくらい、強い日差しに照らされた床は熱くなってる。俺たちは心なしか灼熱の床に踊らされるように飛び跳ねながら、シートのあるところまで急いで戻ると、自然と安心した溜め息が溢れた。 「ちょっと待ってて、飲み物買ってくるから」 「え、あ」 「剣斗はここにいるように」 「おー……」  にっこりと笑って和臣が屋台がずらりと並ぶ、屋内プールエリアの休憩スペースの方へと素足に水着のまま、向かった。 「……」  服、着てると細く見えるのにな。 「……」  脱ぐと、案外筋肉質でさ。俺よりもずっと筋肉ついてる。  あんなん、女が惚れないわけねぇじゃん。  同じ男の俺だってこんなにベタ惚れなんだから。  さっきだって軽々と俺のこと、片腕で水の中から引っ張り上げるし。セックスの時だって、すげぇ、力強くてさ。  ――剣斗、掴まって。  首にしがみついても、全然、でさ。 「…………っ」  ヤバ。  想像、したら、腰がジクジク熱持ち始めた。 「っ」  なんかこのままじっとしてると勃ちそう。  ぐるりと見渡すと、トイレが近くにちょうどあった。  顔、洗おう。  少しのぼせてる。プールのあっちこっちから聞こえるはしゃいだ声と、頭上に降り注ぐ灼熱と、なのに全身を包む水の心地いい冷たさに、なんか、クラクラしてる。  だから顔を洗って、少し落ち着きたくて。  和臣の方が時間かかるだろ。俺らが敷いたシートのところから見ても、室内の休憩エリアはものすごい混雑ブリだったから。ここの荷物なんて浮き輪くらい。  だから、今度はシートが飛ばないようにささやかな重しの代わりに四方に置いてあったサンダルを引っ掛けて、飛び跳ねることなく、ペタペタと呑気な足音と一緒にトイレへと向かった。

ともだちにシェアしよう!