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真夏のプール編 9 溺れそう

「すげ……」  そう思わず声に出た。  波の高さに、じゃなくて。 「な? すごいだろ?」  人の多さに。 「マジで、芋、ごろごろに洗ってるみてぇ」  そう呟いたら、あははって和臣が笑った。本当に、波を再現したプールには人人人人、そんで、人がいる。その人たちが浮かんで波を堪能するために浮き輪使って浮いてるもんだから。本当にボールの中に入れた芋を水洗いでもしてるのに似ていた。 「全プール制覇するんだろ?」 「したい、けど」 「なら行こう。奥なら比較的空いてるから」  確かに和臣が指差した方は空いていた。って言っても人はいる。あと、その辺りだと波は比較的穏やかだった。だから人がいないんだろう。波のプールなんだ。みんな波を満喫したくてここで芋になってるんだろうし。 「ほら」 「! ちょ、和臣っ」  行くぞって急かすように和臣が俺の手を引っ張った。ここ、外だぞ。いや、室内だから外ではないけど。じゃなくて、ここ、人がいるだろ。手、なんて繋いだら、その――。 「はぐれないようにしろよ」  ちょっとだけドキッとした。けど、俺らはダチじゃなくて、恋人同士で、今日はデートだから。 「お、おー」  手、繋げて、ちょっと、嬉しかった。  そのまま手を繋ぎながら、縦一列になって人をかき分け、奥へと進んでいく。リズミカルに何度も押し寄せる波を先を歩く和臣が受け止めて、その度に跳ね上がる飛沫に和臣が笑った。  その笑顔が無邪気で、無防備で。  そんでさ。 「っぷはっ、すげ、顔にめっちゃかかった!」  俺だけを見て笑ってくれるのがなんか、ものすごく、キュンとした。 「大丈夫かよ」 「あははっ」  こんなにでかい口開けて笑う和臣って、あんま見ないから。嬉しくて手をぎゅっと握りながら、二人で奥へ、奥へって進んでいく。 「わ、けっこう深いな」  ある程度、人が少ないエリアに来ると、俺らの足がギリギリ届くくらいの深さになっていた。だから、女の人とか、子どもがこの辺りにはいないんだ。波もかなり穏やかだし。同じプールとは思えないくらい、ここに来るまでに人を掻き分けて通った時の賑やかさが薄れてく。 「ふぅ……」  一つ、和臣が溜め息をついて。 「これで全プール制覇?」  そう言って、俺に笑った。 「……おー」  見惚れる。 「……何?」  なんで、こいつ、こんなにかっけぇんだろって。 「別に。どこでもモテるなって思っただけ」 「なんだそれ」 「今日もすげぇ、あっちこっちで女がガン見してきてた」 「へぇ」 「全部、睨んで蹴散らしたけど」 「あはは。お前、それでたまに怖い顔してたの?」  そーだよ。じゃないと、声かけて、ねぇねぇって甘ったるい声で邪魔されそうだったから。大学でもずっと人気だし、バイト先でだって和臣目当てで来る客がいるって聞いた。イケメンがいるカフェって言われてるって、俺が、和臣のバイトしてるカフェで待ってたら聞こえてきた。 「安心してください。俺、一途ですよ」 「何それ」 「お笑い芸人のネタパクった」  何したってかっこいいんだ。プールの波で顔面びしょ濡れになったって、ウオータスライダーで髪ぐしゃぐしゃになったってかっこいいし。 「モテる彼氏でよかったじゃん」  よくねぇよ。いつもどっかでヒヤヒヤしてるんだ。どこかで誰かに盗られそうって。俺くらいにさ、俺が和臣のこと好きなのと同じくらいに、和臣も俺のこと好きになってくれたらいいのにって、そしたら余所見なんてしないし、他の奴らなんて近付けないのにって。  いつも俺だけヒヤヒヤしてる。 「よくねぇし」  きっとこの波のプールでだって、もっとあの人が多いとこでこうしてプカプカ浮いてたら、視線、気になって仕方なかった。 「じゃあ、俺がモテたら嬉しい? 和臣」 「?」 「さっき、トイレで男に声かけられた」 「は?」 「なんか急に声かけられた」 「は? さっき?」 「そ。混んでるなって話しかけられて、そんで、鍛えてるのかって訊かれた。細いからっつって」 「!」 「そこでトイレ出たけど」  ただそんだけ。声かけられたっつっても微妙だし。今思い出すとそこまでナンパって感じでもなかったなぁって思うけど。 「まぁ、俺なんて、って、ちょっ、和臣っ?」  浮き輪を二人で掴んで、人がまばらな深いプールのところでさ、かろうじて、足の先で立ってる。足が滑ったら溺れそうなギリギリの深さ。そんな不安定な場所で腰を掴んで、引き寄せられて、息がきゅっと止まった。 「っ、何、してっ、和臣っ」  当たってる。 「っ」  和臣のが、当たって、ヤバい。 「ダメ」 「は? ちょ、あんまそこっ」 「モテていいわけないだろ」 「何言って、っ! っっっ」  水の中で、ラッシュガード越しに、乳首を爪で弾かれた。ピンって弾かれて、息が詰まるくらいに感じて、それをじっと濡れ髪の和臣が見つめながら、ちょっと離れたところに人、いるのに、弾かれた乳首を今度は摘まれる。感度がヤバい。刺激が直に腰まで届いて、昨日、突かれた奥がジクジクする。 「っ、和臣っ」  でかい浮き輪で少しだけ周囲から隠れながら、水面だけ見つめて俯いて、こんな場所で乳首いじられて感じてる。 「っ、ぁっ、っ」  甘ったるい声が溢れそう。 「っ」  抓られるのヤバい。 「っ」  気持ち、い。 「っ、っ」  勃つ。 「っ、はっ」  刺激と、この状況に眩暈がしてきて、和臣にしがみついた。 「和臣っ」  キス、したい。  乳首でイきそう。 「和臣っ、っ」  このままじゃ、マジでっ。  イク。  乳首を今、強く抓られたらきっとイク。  歯で噛んで欲しい。唇できつく吸って欲しい。痛いくらいに、そこ、可愛がられて――。 「剣斗、プール出るぞ」 「っ」  一瞬、ここがプールで、人がいること忘れた。はしゃいだ声が遠くになって、波の押し寄せる水音も頭ん中から消えてた。 「っ」 「浮き輪で隠して」 「っ」  今、和臣にイかせてもらうことしか考えられなかった。

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