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- 弐 -

 弥兵衛は自分の下にいる艶やかな浅治郎を見る。  身をくねり、男の猛りを欲して声を上げるこの青年のいったい誰が、今世間を騒がせている辻斬りだと思うだろう。実際に浅治郎が人を斬る現場を目にした弥兵衛でさえも(にわか)には信じ難かった。  しかし、この青年は紛れもなく今世間を騒がせている辻斬りの常習犯であり、心に邪を住まわせている者なのだ。  その証拠に、入口に立てかけてある刀は様々な人間の血を吸い、禍々しい輝きを放っている。  浅治郎は古道具屋でこの刀をひと目見て気に入り、念願だったこの刀手に入れてからというもの世の中の見方が変化したという。それまでは生きる意欲もなくした生きた屍だったとも酒を嗜んだ時に漏らしていた。  無名ではあるが、おそらくはこの刀、村正に匹敵するほどの妖刀の類に違いない。  商人に生まれてこの方、刀を握ったこともない弥兵衛でもわかるほどの、どこか人を惹きつける何か妖しげなものを持っていた。

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