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- 四 -

 ◆  時折、生ぬるい風が吹く。  浅治郎と初めて出会ったのもたしかこんな晩だったと、ふと弥兵衛は思う。  五十年という年月を生きてきた弥兵衛が生まれて初めて恋をしたのも、そしてこれまで知らなかった自分の一面を知ったきっかけもまた、浅治郎だった。  弥兵衛の家は曾祖父から代々受け継がれてきた米問屋だ。父は厳しく、母は思いやりに溢れたごくごく一般的な家庭であった。幼い頃から父親には商人のいろはをとことん詰め込まれて育ってきた弥兵衛には反抗期というものを持たず、父親の言われるがままに過ごしてきた。  そうして父親は弥兵衛が三十になる頃、気に入った娘を迎えさせ、店を任せて隠居をした。  弥兵衛は身を固めたが、子供を授かる前に妻は流行病でこの世を去った。  寂しさを紛らわせるため精を出した結果、米問屋はたちまち繁盛し、こうして大店の主にまで上り詰めたのだった。  店は繁盛し、幕府の御用達にまでなった。――ともすれば、あとは自分の幸せを考えて生きていくのも良いだろう。

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