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- 五 -

 しかし、後添えを貰おうにも弥兵衛自身はすっかりくたびれてしまっていた。それというのも、世の中の女性は大店の主というだけで言い寄ってくることが多かったからだ。  自分が裕福というたったそれだけで寄ってくる。  誰も本当の自分を知ろうともしない。  弥兵衛は世の中の女性というものにほとほと嫌気を差し、ゆくゆくは番頭にでも店を任せて隠居しても罰は当たるまい。  こうして独り身となった弥兵衛は、年を重ねる毎に隠居のことを考えるようになっていた。――とはいえ、人の良い弥兵衛を慕う者は多い。  なにせ弥兵衛はたいへんお人好しで、月に六回は必ず貧しい人々のために施し米を配っていたのだ。おかげで弥兵衛の評判は上々だ。  また、ふくよかで、分厚いぼってりとした唇に目尻が垂れ下がっている人の良さそうな風体も人気があった。付いたあだ名は、『仏の弥兵衛』

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