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- 七 -
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それは三日前の晩のこと――。
世間では『人斬り』の噂で持ちきりで、日が暮れると怯えて誰も外を出歩く者なんて見当たらない。
そんな中、弥兵衛は近所の寄り合いの帰り途中、普段ならばどこを出歩くにしても常に丁稚 を引き連れ歩くものを、その日は何故か共の者を付ける気になれず、提灯片手に一人、夜道を歩いていたまさにその時、浅治郎と出会したのである。
今思えば、浅治郎との出会いはまさに運命だったのかもしれない。
店に帰る途中で、弥兵衛は浅治郎が奉公人と行商人を斬るところを見てしまったのだ。
浅治郎こそが、この江戸中を騒がせている人斬りその人だったのである。
しかしおかしなことに、人を斬るその場に居合わせた弥兵衛には恐怖心はまるでなかった。
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