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- 八 -

 それどころかなんと美しい男であろうかと、四十を過ぎたこの年にも関わらず、まるで生まれて初めて恋を知った少年のようにすっかり心奪われてしまったのである。  薄闇の中、奉公人の手から離れた提灯(ちょうちん)を燃える炎が突き破り、浅治郎の華奢な身体の輪郭を照らす。後ろに束ねた美しい髪は音もなく風に揺れ、弧に曲がった薄い唇から漏れるのは悦に浸った低音の笑い声。そして彼が手にした刀から滴り落ちる真っ赤な血液。  その光景を見ているだけで心臓が大きく鼓動し、丸みを帯びた背筋がぞくぞくする。  人の中に流れている真っ赤な鮮血はなんと美しいものだろうか。  浅治郎が人を斬る姿をもっと見てみたい。  こんな体験は生まれてはじめてで、浅治郎のすべてが弥兵衛を虜にした。  弥兵衛はてっきり、自分は老いてゆくだけのなんの愉しみもない平凡な人生を過ごすのだとそう思っていた。  しかしまさかこの年になって新しい一面を知るとは思いもしなかった。

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