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第17話

「幸先輩っ!!緊急事態なんですってばっ!!」 きっとこの声は後輩の蓮口樹である。俺は緊急事態だという樹の言葉に驚いて、トイレの鍵を開けようと手を伸ばしたが、またもやその手は風早に止められた。 「いい加減にしろっ!別に俺が海と何しようがお前には関係ないだろっ!!」 樹に聞かれては困るので、少し抑えめに怒鳴る。すると、一瞬風早の顔に反省の色が伺えた。だが、それは一瞬。 「俺は事を穏便に済ませようと思ってるだけだよ。それとも幸は脅してほしいの?」 脅して欲しい訳なんてあるはずがないだろ!! 俺はせめてもの抵抗に風早の足を思いきり踏んでやった。しかし、今度は顔色一つ変えやしない。 「お願いってば~~、幸は俺の理想そのものだよ?大きさも抱きしめるのにちょうどいいし」 そう言ってぎゅっと抱き付いてくる風早。すっぽりと包まれてしまった俺は、もう抵抗する気も失せてしまっていた。 「・・・友達からだ。普通会って二日で付き合うとかそういうのはないだろ??友達からだっ!!!そんなに言うなら俺のことを惚れさせてみろよ!!!!」 「いいの?俺本気で頑張っちゃうよ?」 「頑張ってみろ!!ちなみに友達は抱き付かないっ!!」 俺が風早の胸板をバンバンと叩いてやると、風早はしょうがないなぁと苦笑しながら放してくれた。 「それに友達は同じ個室に入ったりもしないっ!!」 ぎぃっと睨みつけて、そのままトイレの鍵に手を掛けた。風早はもう止めたりはしない。 「はいはい、それと友達は乳首弄ったりしたらだめなんでしょ?」 「当たり前だ!!!!」 思いきり鍵を開いて、すぐに個室から飛び出る。トイレを出た先の廊下に見知った顔が見えた。 「樹っ!!」 慌ててトイレから出て、声を掛けると樹がこちらを向いた。 「あっ!幸先輩!!大変なんですよ~~!」 眉を下げて、こちらの方に走ってくる樹は何やら紙を一枚持っている。 「これ、見てくださいっ!!」 見れば、俺たち料理部の顧問からの手紙だった。 「えっと・・・今日から産休に入るので、別の人に顧問を任せました、あとはよろしく・・・」 「職員室に行ったらもう理沙先生いなくて・・・俺、俺、妊娠してるなんて知りませんでしたよっ!?」 「俺も初耳だ・・・」 姉ちゃんに言われ渋々入った料理部は結構楽しい。特に規則もないし、好きなときに行って料理をして食べて帰るだけ。たまに海のサッカーの試合に差し入れを作っていったりもする。 そんな部活の顧問である高見理沙先生が産休。結婚していることは知っていたが、妊娠までは全く気が付かなかった。 「問題がね、別の顧問なんですよ・・・」 樹が深刻な顔で唸る。 「誰なんだ?」 聞けば、樹が小声で答えた。 「横井、翔太先生です。あの人なんか変な噂しかないじゃないですか~~~・・・」 「え、横井先生っ!?王子?!」 保健室の眠り姫と呼ばれた生徒と付き合い、しかも昨日俺のことを送ってくれた横井先生。正直風早のこととかバレていそうなので、会いたくはない。 「王子・・・?」 「いや、なんでもない・・・」 これは部活も大変なことになりそうである。 「幸、王子が顧問ってどういうこと?」 風早のそんな声が聞こえてきた気がした。

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