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第18話

「きゃあああああああああああ!!!!」 調理室へ向かっている途中で、これまた見知った声が聞こえてきた。しかも、今度は悲鳴。 「那智だっ!今のは調理室からですよね!?行きましょ!?」 樹がそう言って、走り出した。俺も後を追って走り出す。 赤原那智は樹と同じく俺の後輩で、料理部の副部長である。引っ込み思案で恥ずかしがり屋の彼があんなに大声で叫ぶなんて何があったのだろうか。 「那智っ!!何があった・・・の・・・」 ガラっと勢いよく扉を開けた樹はそのまま固まった。俺も間から調理室の中を覗き込むと、固まってしまった。 中には不似合いのフリフリのエプロンを着た横井先生と、半泣きの那智。そして、横井先生の手には赤い血。持っている包丁にも血が付いていることから、きっと包丁で切ってしまったのだろう。 「樹・・・、それに幸先輩・・・よかった、横井先生が・・・」 那智が安心したかのように溜息をついた。横井先生は何が何だかわからないという顔で自身の血が垂れる手を見つめている。 「だ、大丈夫ですか?」 樹が真っ先に横井先生の元へ駆け寄り、手の傷具合を見た。痛そうだ、と顔を険しくさせていると那智がそっと俺に耳打ちしてきた。 「横井先生は、僕たち一年の日本史と三年の世界史担当をしているので僕もよく知っているんですが、手先が壊滅的に不器用っていう噂があって・・・」 「不器用?」 「はい、美人の奥さんがいるけど手先が不器用だから良く叱られているんだそうです」 なるほど、樹の言っていた変な噂っていうのはそのことか。しかも、噂だけではなかったようだ。 「今日は何で怪我を?」 「先生が、料理初心者ということで今日はチャーハンを作ろうってなったんですけど・・・その、ソーセージを自分の指を間違えて・・・」 見れば、横井先生の足元には切れかけ、それも大きさがバラバラのソーセージが落ちている。そのうちのいくつかには、血が付着していてとても不気味だ。 「それは・・・不器用というか、アホというか・・・」 「僕、あんなにすっぱり自分の指に包丁入れた人初めて見ました・・・」 「それは災難だったな・・・」 想像するだけでも指先が痒くなってくる。俺は自身の指をそっと握り込んだ。 「幸先輩、絆創膏ありませんか?」 先生の手当てをしていた樹がふとこちらに振り返って言った。 「ば、絆創膏・・・!?」 思わず自分の胸を凝視してしまい、違う違うと慌てて目を逸らして頷いた。 「それなら俺の鞄にあるはずだ、調理室にも予備の絆創膏なかったか?」 包丁で怪我は滅多にしない俺たちだが、一応ということで調理室にも常備してあるはずだった。 「調理室の絆創膏じゃちょっと小さすぎて・・・」 「そんなに傷が深いのかっ!?」 慌てて先生の元へ駆け寄ると、確かに深い。深いというか、デカい。こんな傷じゃ那智も悲鳴をあげる訳だ。 「っていうか、あんた、保健室の先生でしょ!!!自分で手当てくらいしてください!!」 樹の言葉に俺もそうだと頷く。 「いやぁ、驚いちゃってさ~」 あはは、と乾いた笑みを浮かべた先生はこう続ける。 「料理って難しいね~、俺びっくりしちゃった」 「いや、先生ソーセージしか切ってないじゃんっ!!!」 那智のそんなツッコミが調理室に響き渡った。

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