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第19話
無事に(?)横井先生の傷も塞がり、包丁で怪我をすることも少なくなった。案外話してみれば、いい人だし俺たち三人は横井先生に懐きつつあった。
一方で、風早も友達から始めろという俺の意見を尊重してのことか、あれから一向に手を出しては来ない。トイレの個室に連れ去られたりもしないし、隙あらば抱き付いてきたりも減った。まぁ、俺が海と話している時だけは不機嫌だけど。
俺も別に風早のことが嫌いではなく、今の距離感がとても心地良いと思う。あの顔で勉強ができるという風早は教えるのも上手だ。お陰で宿題は毎日完璧、予習も完璧。
それに、風早は俺のことを少し女子のように扱う。車道側に俺を絶対歩かせないし、ドアがあれば必ず開けてくれる。持っている荷物が重かったらひょい、と取られるし・・・とにかくこいつは今とても紳士だ。俺のことを抱きしめて、俺のもんにしたい・・・と呟いていたあの風早はどこに行ったのだろう。
そうして、風早と良い友達関係が築けそうだと機嫌が良かった俺に、一つの事件が起きた。
「ねぇ、幸くん・・・だよね?覚えてる?」
夜、絆創膏が足りなくてコンビニに買いに行った帰り、俺は見知らぬ人に声を掛けられた。
振り向くと、四十代の男が不気味に笑って立っている。切れかかっている電灯のせいで、不気味さが余計に増した。
顔を見た途端、ある記憶が頭の中を駆け巡る
。
そう、あれは、あれは忘れもしない六年前。
私立の小学校に通っていた俺は電車通学をしていて、そこで・・・そこで、痴漢に遭ったのだ。
「君可愛い顔してるよねぇ」
満員電車の中、後ろから誰かにそう言われた。まさか、自分に言っているとは思わなくて何も言わずにいると、突然服の上から乳首を弄られたのだ。
六年前、当時小学六年生だった俺は性の知識もなく、乳首が感じる訳でもなかったので、痛いとその手を突っぱねた。この時、俺はまだ自分が痴漢に遭っているなんて思いもしなかったのだ。
そして、小学校の最寄の駅に着くまでその男は俺の後ろではぁはぁと息を漏らしながら、俺の乳首を弄っていた。時節股間も触られて、初めての感覚に俺は声も出せず、涙を浮かべて下唇を噛んだまま耐える他なかった。
「ここも小さくて可愛い。知ってた?乳首も気持ちよくなれるんだよ」
まるで催眠術のように、その言葉を発し続けた男。
俺は駅に着いた瞬間、飛び出してトイレに駆け込み、初めて自分で乳首を触った。
泣きながら、触った。
その日は学校を休み、それからというもの、俺は絆創膏が手放せなくなった。
あの時の男の言葉が頭から離れないせいで、俺の乳首が変になったのだ。
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