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第20話
そこまで思い出して、俺は背筋を固くした。
「ランドセル背負ってる時の幸くんも可愛かったけど、今も可愛いよねぇ~。俺ずっと探してたの」
そう言ってジリジリと近づいてくる男。俺は恐怖心でまたもや声が出なかった。
一歩だけ後ずさりできたが、それ以上は体が強張って動かない。まるで金縛りにでもあったみたいだ。
近づいてきた男は、ゆっくりと俺の頬を撫でた。ぞわっと鳥肌がたつ。俺はぎゅっと目を瞑って耐えた。風早とは比べものにならないくらいの嫌悪感に、俺は失神してしまいそうだった。
「幸くん、俺あの時乳首いっぱい触っちゃったよねぇ、ごめんねぇ」
頬を撫でていた男の手がそのまま滑り落ちて、俺の胸に移動した。
「ひっ・・・」
やっとのことで口が開いても、出てくるのは悲鳴交じりの小さな声。情けなくて、涙が出そうだ。
俺は何もできずに立ちすくんだ。あの時と一緒だ、電車に乗っていた、あの時と。
姉にも、親にも相談はできなかった。電車にはもう乗りたくない、と頑なに拒んで両親を困らせたことは少し覚えている。
男の指が服越しに何かを探して動いている。お目当てのものを見つけたのか、男はにぃっと笑ってそれを摘んだ。
「っ・・・」
声なんて、出すものかと唇を噛んでぐっと耐えた。
夜になると、人っ子一人通りやしないこの道は、昔お化け街道と呼ばれていた。俺もお化けは苦手なので、なるべく通らないようにしようといていたのだが、コンビニまで行くにはこの道が一番早い。安全さよりも、楽さを優先した少し前の俺を殴ってやりたい気持ちになった。
「ん、何かあるねぇ・・・これは何かな?・・・絆創膏?」
グニグニと俺の乳首を摘んでいた男が首を傾げて言う。黙ったままの俺を肯定とみた男はさっきよりも笑みを深くした。
「そうかそうか、もしかして俺が触っちゃったからかなぁ??」
男は俺を壁際まで押し込んで、俺のことを舐めまわすような視線を向けてくる。
これが、風早だったら。
『・・・可愛い』
そう言った風早の声が頭の中で反響する。風早は男と違って、ちゃんと嫌と言えば放してくれた。放してくれない時もあったけど・・・。
俺が本当に嫌がることはしなかった。そう思うと、急に風早のことが恋しくなる。
瞼の奥が熱くなって、視界がだんだんと揺らぎ始めた。
「幸くん、可哀想に・・・泣いちゃったの?」
一度流れた涙は、元には戻らない。頬を伝って、ぽたりと地面に落ちる。男はそんな俺の涙を手で拭った。
その時だ、視界の隅で長身の男が現れたのは。
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