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第21話
「幸っ!!!」
ずっと聞きたかった声が俺の名前を呼んだ。刹那、魔法が解けたかのように、体が動くようになる。
「風早っ!!」
急いで、男を振り切って声がした方へと走る。薄暗い夜道の中、風早の姿は不覚にも救世主のように光輝いて見えた。
「幸、こっち」
風早の元に走り込んだ俺は、そのまま躊躇いもせずに風早に抱き付いた。人気の少ない道で逆に良かったのかも知れない。風早は抱き付いた俺を近くの狭い路地へと連れて行った。
懐かしい香りだ、柑橘系のコロン。友達宣言をしてから、近づいてこなくなったのでこの香りを嗅ぐのも久しぶりだった。
「大丈夫?何もされてない?」
風早がそう言って俺の頬を撫でた。さっきの男と同じ行為のはずなのに、嫌悪感がない。むしろ、安心してまた涙が出てきた。
「うっ、ひっくっ・・・ぅっ」
滝のように流れ出た涙は一向に止まらない。風早はそんな俺を見て、水分がなくなっちゃうと笑う。
「怖かったね、ごめんね、もっと早く迎えに行けばよかった・・・」
よしよし、と頭を撫でられて風早の大きな手を頭に感じる。涙や鼻水で風早の服が汚れても、何も言われなかった。
「遅い・・・ばか・・・」
やっとのことで声を震わせながら言葉を発する。
「ごめんね、ごめんね」
こういう時に限って、風早はふざけたりしない。今まで見たことのないような真剣な表情の風早は、少しかっこいい。
「俺の家そこのすぐ角なんだけど、来る?落ち着いてから家に帰った方がいいよ」
どうして風早は俺があそこにいることを知っていたのだろうか。
・・・変に気が利くやつ・・・。
「行く・・・」
俺がコクンと頷くと、風早は俺を支えたまま歩き出した。
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