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第29話

「起きて、幸。起きてってば」 とんとん、と肩を叩かれて俺は薄っすらと目を開けた。 誰だ?頭が覚醒しなくて、誰の声かよくわからない。ぐっ、と寝ぼけながら手を伸ばすと何か柔らかい物に手が触れた。 「・・・ぅ?」 何だこれ、と手先でその柔らかい物に触れる。 「さーち、ほら・・・ちゃんと目覚まして」 なんだかよくわからないけど、その声がひどく面白くて、くふふと笑いを零すと呆れたようなため息が聞こえた。 「ねぇ、幸・・・。とっても可愛いんだけど、これ以上されると俺の身が持たないというか・・・」 突然、鼻を摘まれてふがぁっなんて間抜けな声が出た。その瞬間沈んでいた意識が戻ってくる。 「あ・・・、はや?」 ぱちり、と目を開けるとそこには幸をじーっと見つめる風早の顔。何故か、風早の唇を俺は触っていた。 「っ・・・え?」 何がどうなってるのか理解出来なくて、俺は頭の上にハテナを浮かべる。 「幸が悪いんだよねー、こればっかりは・・・」 そう言って風早は俺の上に覆い被さり、ぎゅっと俺を抱きしめてきた。 「お、おいっ・・・風早っ、おまっ何して・・・」 ぐい、と風早を押してみるがビクともしない。これは諦めるしかないのか、と俺は周りを見渡す。 窓から見える空がもう夜を告げていた。何時だろうか?携帯は近くにあるだろうが、生憎風早が乗ってるせいで取れない。 そういえば、体がさっぱりしている。風呂にでも入れてくれたのだろうか。 風早より俺の身長が小さいとはいえ、一応れっきとした男だ。そんな力の抜けた男を風呂に連れてくのは風早だって疲れただろう。でも、礼は言わない。だって俺が意識失ったのは、風早のせいだし。 幸い、明日は休日だ。無断宿泊したところで、姉はどうせ海のところに言ってるとか思ってるだろうし。別に心配されるような年でもない。 安心して眠ろう、と目を閉じようとしたその時。 「好きだよ、幸。俺と付き合ってよ」 風早がそう呟いた。さっき、あんなに俺に意地悪していた人と同一人物とは思えないくらい頼りない声。 「明日からやっぱり俺らは友達のまま?」 肯定も否定もできなくて、俺は卑怯なことに寝たふりをしたままその夜を乗り切った。 「・・・おやすみ」 寂しそうな風早の声は、聴かないフリ。

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