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第30話

今日は部活動がある日である。 俺は、鞄の中にいつも使っているエプロンが入っているかどうかを確認してから家を飛び出した。 いつも通り、海が家の外で待っている。 「おはよっ!」 そう声を掛けると、これまたいつも通り携帯から目を離した海がこちらを向いておはよう、と返事をした。 「今日は部活?」 「え、うん。なんでわかったんだ?」 すると、海が俺の鞄からはみ出ているエプロンの紐を持って言った。 「これ、出てるから」 「わっ、ほんとだ・・・」 そそくさと鞄に仕舞い、俺は学校へと歩き出す。少し歩くと、またいつも通りの人物が現れた。 「幸ぃぃぃー!!!おはようっ!」 後ろから抱き付かれることは知っていたので、突然重みが肩に襲い掛かってきてももう驚きはしない。 「おはよう、風早」 あの日以来、神妙な表情で付き合ってよ、と風早が言うことはなくなった。俺の返事を待ってくれているともりらし風早に、俺もそろそろ返事をしなければ、と思う。 自分の気持ちにはなんとなく、気づいている気はするのだ。でも、あと一歩の勇気がでない。 でも、だって、男同士だぞ・・・。 そんな風に考えていると、授業はあっという間に終わってしまう。最近風早は、サッカーチームに臨時で入っているらしく、海とも打ち解けてきているようだった。 「幸先輩っ!部室行きましょっ」 教室まで迎えに来てくれた樹と一緒に調理室まで歩き出す。 「今日は何を作るんだっけ」 「確か・・・横井先生がハンバーグのリクエストしてましたよね?」 樹に言われ、俺はそういえばそうだったと頷いた。しかし、調理室の冷蔵庫にハンバーグの具材はあっただろうか。ミンチ肉はなかった気がする。 「具材はどうする?買いに行くか?」 近くにスーパーがあるので、いつも買い出しの際はそこへ行っている。 「そうですね、俺と那智で行っておくので幸先輩は横井先生に作り方を教えてあげてくださいっ」 多分、樹の中に横井先生にもう失敗はして欲しくないという願望があるのだろう。包丁で手を切った先生は、次の日も失敗をやらかしていた。料理が苦手だと本人は言っていたが、それだけではない気がする。 俺だって今まで料理は何年もしてきたが、自分の手のほくろをジャガイモの芽と間違えて抉ったことは流石にない。あの時も立ち会っていたのは那智で、悲鳴をあげたのも那智だった。 「あ、あぁ・・・。教えておく」 樹も樹で、この間横井先生が揚げ物で大きな火傷を負った時に側に居たらしく悲鳴まではあげてはいなかったが顔が引きつっていた。 次は俺の番か・・・。 なんて考えていると調理室に着き、ドアを開ける。既に中にはエプロンを身につけた横井先生が立っていた。 「あ、幸くんっ今日もよろしくね」 そう言った横井先生の手には絆創膏が四つ付いている。全てこの調理室での怪我である。 「よ、よろしくお願いします・・・」 今日は気合が入っているのか、横井先生がそわそわしながら冷蔵庫の側を行ったり来たりしていた。 「あ、じゃぁ俺買い出し行ってきますね」 鞄を置いて、財布だけ取り出した樹がそそくさとそう言って調理室を出た。あとはよろしく、の如く飛び出した樹に俺はため息を一つついた。 「あの、横井先生・・・今日は怪我しないように・・・」 言っても無駄な気がしたが、一応そう断ろうとすると突然ガラッとドアが開いた。 「翔太先生〜、俺お腹すいた〜〜」 ・・・誰?

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