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第35話
「えっ・・・」
すぐに首を横に振って否定をするが、海は俺の方を見ずに言う。
「お前の姉ちゃん気づいてたぞ」
姉ちゃんにもバレている・・・?驚いて、俺は振っていた首を止めた。
海を真正面から見つめると、海もこちらを見つめてくる。透き通った瞳には、少しの怒りが見えた。
「どうして相談してくれなかったんだよ」
「・・・気持ち悪がられると思って」
「そんなこと、思うはずないだろ」
「でも・・・」
俺は俺自身のことを、気持ちが悪いと思っていた。だから、人にはバレてはならないと思っていた。
風早もそうだ、もしかしたら海も気持ち悪がらないでくれるかもしれない。なんて淡い期待。
「どこ・・・触られた?」
海がそう言って一歩近づいた。一つ距離が近くなった海が、心配そうな顔をする。
「お前が何か隠していることぐらいわかってたよ」
また一歩と近づいてくる海。
一瞬、海があの痴漢に見えた。・・・そんなはずない、そんなはずないのに・・・。
「んっ・・・」
海が俺の頰を撫でた。運動して熱を持った指が顎をなぞる。ゴツゴツとした、男らしい手。俺にはない手。
「どこを触られたんだ」
さっきよりも冷たい声だった。何か焦っている様子にも見て取れる海の姿に、俺は恐怖で震えていた。
「海・・・には、関係ない・・・っ」
零した言葉が、余計に海を怒らせたらしい。顎をなぞる手が少し乱暴になる。爪が俺の顎を掠めて、痛みが広がった。その痛みは、顎だけじゃなく心まで浸透してくる気配がした。
「関係ないことない。俺は、俺は・・・お前のことが」
もう一歩海が近づいた。
目の前にある海の表情がくしゃっと歪む。
「・・・好きだから」
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