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第36話

ひゅ、と喉が鳴った。驚きで声が出ないとはこういうことなのだろう。 「小日向とその・・・」 ち、と舌打ちをした海が嫌そうな顔をして言う。 「何・・・」 俺がそう問うと、海はさらに嫌そうな顔をして言った。 「見たんだよ・・・・、お前が小日向って野郎とキスしてんの」 海の言葉に、俺は口をあんぐりと開ける。見られていたのか、という衝撃よりも先に羞恥心が幸を襲った。 「い、いつ・・・見たんだよ」 おそるおそる、俺が聞くと 「お前が、小日向にお姫様抱っこされながら保健室に行った時のあのお前の顔。忘れられなくて、俺も幸が心配なので見に行ってきますって教室を出て・・・。保健室に行ったら、お前と小日向がキスしているのが見えた、それだけ」 淡々と抑揚のない声で話す海が別人に見える。見たことのない海の姿に、俺はしどろもどろになるしかなかった。 「あ、あれは・・・その・・・・」 どう返すべきか、迷いどころだ。下手に返してしまえば、それこそもう海には信じてもらえないかも知れない。 「・・・付き合ってんの?」 俺はまたもや返事に困ってしまう。じ、と海に見つめられて俺は目線を傾けた。 「ち、がぅ・・。付き合ってない・・・」 俺がそう言うと、心なしか海の顔が綻んだように思えた。 「なら、なんで?無理やりか?」 「それも、違う・・・」 あの時は無理やり、だったとも言えるかも知れない。しかし、今はもう嫌じゃないから。 「じゃぁ、なんだよ」 「べ、別に・・・・」 何か、この場に合ういい言葉はないだろうか。どうにか考えようにも、悲しいことに何も思いつかない。 頭の中が空っぽになったみたいに、何も考えられなくなる。黙ったままでいると、いきなり唇を何かに塞がれた。 「・・・んっ?!」 驚いて、目を見開けると、そこには目を閉じた海の顔があった。 「なら、俺でもいいよな」 そのまま腕を掴まれて、俺は抵抗出来なくなる。 「え・・・?」

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