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第38話
海に襲われましたって?冗談じゃない。助けを求めるように海を見つめたが、何も返事はない。
「何してんのって聞いてんの。二人は付き合ってるの?」
風早の表情が冷たい。この間見た、好きだよ、そう言った風早の表情とはまるで別人だ。
「ち、違うくて・・・」
俺はお前が好きなのに、そう言おうとしてもきっと今は信じてくれない。俺は口を噤んで俯いた。
「そう、俺たち付き合ってるから」
そう言った海が、俺のシャツをぺろりとめくった。
「やっぱり、絆創膏貼ってる」
「か、海っ!?!?!?何言ってんだっ!お前っ!!!」
そう怒鳴っても、海は涼しい顔で訂正しようとはしない。俺は風早の元に駆け寄って、違うと言おうと思ったが、風早の表情が俺をそうしようとはさせなかった。
「・・・そっか」
あんな顔、見たことない。俺は唖然として、風早に手を伸ばしたがその手は宙を彷徨って、そのまま下ろされた。
「ごめんね」
何に対しての謝罪・・・?なぁ、風早どうしてそんな遠くにいるの。どうして俺の手を取ってはくれないの。
風早は一言謝っただけで、そのまま姿を消してしまった。
追いかける間もなく、風早は名の通り風のように、消えてしまった。
「なんで・・・こんなこと・・・」
絶対嫌われた。こんなことになるなら、告白された時にちゃんと自分の気持ちを伝えればよかったのに。
あの時だって、自分の気持ちには気づいていた。気づいていたのに、無視したのだ。
俺はただ涙をぽろぽろと零してしゃがみこんだ。シャツを止め直す気力もなく、ただただ涙を流し続ける。
「俺はお前が、小日向と・・・キスしてんの見て、辛かった」
返事もできない俺に、ぽつぽつと海が話し出す。
「こんなの、卑怯だって・・・知ってる」
泣きそうな、海の声。聞きたくない、もう聞きたくない。
「でも、止められなかった。俺はお前が好きだから。ずっと前から好きだから」
胸が締め付けられるように、心が痛かった。
「少しでも、俺のこと嫌いじゃないなら・・・抵抗しないで」
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