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第47話
昨日はあんまり寝れなかった。原因はわかっている。ここ最近頭を悩ませている種のこと。
「さっちゃん?今日早いね、どっか行くの?」
土曜なのに早起きした俺を姉ちゃんが不思議そうな顔で見てきた。
「・・・試合の差し入れ」
「あー、いつものやつね。今年は何作ったの?」
「ゼリー」
「へぇ・・・、風早くんが好きなの?」
話が突然飛んだように感じて、俺は思わず足を止める。姉ちゃんの方を見つめると、やっぱりだ、いたずらっ子みたいな顔をしていた。
「え?」
「あ、言葉足りなかったわぁ。ゼリーのこと!風早くんはゼリーが好きなの?」
「・・・まぁ、そんな感じ」
姉ちゃんに冷たく返事しながら、昨日の晩から冷やしておいたゼリーを取り出す。一つだけ赤いゼリー。那智に三パックもいちごを渡されて、一応ふんだんにいちごは使った。だが、まだ半分以上俺の家の冷蔵庫に眠っている。いちごのゼリーは昨日散々姉ちゃんに味見はしてもらったので、味が変ということはないだろう。
保冷の効く鞄にゼリーが崩れないよう慎重に入れる。保冷剤も詰め込んだせいでかなり重たい。
忘れ物はないか、と一通りチェックした後玄関に向かうと姉ちゃんもパタパタと足音を立ててついてきた。
「いってらっしゃい。姉としては、弟の恋を応援したいわけよ。ガツンと言っちゃってきなっ!!」
バシン、と背中を思いっきり叩かれて俺はぶへぇっという情けない声をあげる。
今ので絶対ゼリーが少し崩れた、姉ちゃん許さない。
少し前まで、目を閉じると風早の傷ついた顔が浮かんでいた。が、最近は風早の顔を満足に見れていないせいで霞んでいる。いける、俺なら大丈夫。
そう決心して、俺はドアを開けた。
☆
「あー!幸先輩!こっちですー!!」
待ち合わせ場所に着くと、もう樹と那智は到着しており試合の観覧席も取っておいてくれていた。横井先生も後からすぐ駆けつけてくれた。鹿山先輩はバイトらしく、終わったら来てくれるらしい。
同じ高校の人達も何人かいるらしく、会場ではもう高校の応援歌が歌われている。
「人すごいな・・・」
「今年も熱いですねぇ、去年より人多いですもん」
樹も那智も、中学の時から友人がサッカー部にいたらしく試合をよく見に来ていたらしい。
四百人程入る会場が立ち見が出る程人で溢れていた。取れた席は端っこだったが、前の方なのでよく見える。
「あ、今なら会えるみたいですよ!」
樹が携帯を見て嬉しそうに笑う。見れば、海からのメールだった。今なら会える、短い文章だったが樹が大事そうに携帯を握りしめる。
横井先生に席に座ってもらっておいて、俺たちは選手のいる一階へと向かうことにした。階段を降りると、高校のユニフォームに身を包む選手が見える。
いた、右の端。やっぱり、身長が高いせいで目立つ・・・。
ユニフォーム姿を見るのは初めてだった。似合うとか似合わないとか、そういう話じゃなくて勝手に目が風早を追う。樹に肩をぽん、と叩かれて俺はすぐにはっと意識を戻す。
「幸先輩?大丈夫ですか??行きましょっ」
樹に手を引かれて、俺は選手の集まる場所まで走った。
風早と、目が合った。
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