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第48話

正面から風早を見るのは一週間以上ぶりだ。俺は鼓動がどんどん早くなるのを感じた。 「お、来たか料理部っ!今年も差し入れ期待してるぞっ」 声を掛けてくれたのは生徒会副会長兼、サッカー部副部長の亜久津蓮。姉ちゃんの一つ後輩で、家にもよく遊びに来ていた人だ。 「はい!今日のも自信作です!楽しみにしててくださいねっ」 「え、何くれんの?聞かせてよ~」 「試合で勝つまで内緒ですぅ~」 「樹はケチだなぁ」 あはは、と仲の良い蓮先輩と樹が笑い合っている。 場の緊張も少しほぐれたようで、周りの選手に笑みが広がる。 ・・・二人を除いて。 「あっ、海先輩っ!!!その・・・応援してますっ」 樹が海のところへ向かうと、海も少し表情が和らいだ。 あと残るのは一人。俺は一つ大きな深呼吸をして、歩みを進めた。端で壁にもたれている、風早に向かって。 「風早・・・」 久しぶりに名を呼んだ気がした。よく口に馴染む名前。顔を上げると、また目が合った。慌てて目を逸らす。 「えっと・・・」 頑張れ俺、ここで何か、何か言わないと。 「が、がん・・・」 「小日向ーっ、もうアップ始めておこうぜー!!」 振り返ると、蓮先輩たちはもう準備運動を始めている。早くしないと、風早が。 「はーい、今行きまーす」 風早が行っちゃう。 「あ、か、風早・・・っ!し、試合頑張って、お、応援してるから・・・。あと、後ででいいから話しよ・・・?」 しどろもどろになりながら、何とか言いたかったことは言えた。 風早の顔を見るのが怖い。 下を向いたままでいると、何かが頭の上にぽん、と乗った。 「・・・?」 風早の手だ。温かい、大きな手。そして何よりも、風早に触れられたことが、嬉しい。 「ありがと、俺も話したい事あるから」 優しく頭を撫でられて、風早はすぐに行ってしまった。 優しい声色、怒ってない声。 安心で、涙がでてしまいそうだった。

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