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第60話

「俺、実は養子なの」 風早はなんてことないようにそう言った。 「・・・え?」 「あ、でもそんな暗い話じゃないけどね」 へらりと笑ってみせる風早に俺はなんて言えばいいかわからなくてただ黙って聞いていた。 「初めは施設で暮らしてたんだけど、俺の顔がある人に似てるっていう噂が広まったんだよ。ある人っていうのが俺の今の養父。似てるから引き取ってくれたんだってさ・・・。養父にはずっと子供がいなくて後継を探してたらしいんだよね、その後継候補になったのが俺。でも最近隠し子かなんかが現れて俺はお払い箱になったんだよ・・・ってそんな悲しい顔しないの。俺は幸と会えたからよかったんだよ」 風早は優しい。 ぎゅ、と手を握られて、俺は少しだけ頷いた。 「だから高校も引っ越すことになったんだけど・・・。あ、ちなみに隠し子って言うのがね、栗原守なんだけど・・・」 知ってる?と首を傾げる風早に俺は思わずコクコクと頷いた。 「い、今を輝くスーパーアイドル・・・」 姉ちゃんが言ってた言葉をそのまま呟くと、何故か風早が不機嫌になった。 「この間俺がぶつかったのも全部栗原のせいだよ、っていうかあいつがぶつかってきたんだ」 そういえば、風早とぶつかった相手はあの栗原だと聞いた。 「栗原は俺のことを敵視してるみたいだ、俺はもう跡を継がないって決めたのに」 複雑な風早の事情。何も知らずにいた自分が情けない。 「ってあ、俺が話暗くしてるんだよね、ごめんね・・・」 「え、いや、でも」 「今日は幸との待ちに待ったデートだもんね、明るい話しよっか!」 気の利いたことが何もいえない自分もやっぱり情けない。

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