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第61話

俺が悲しい顔をしたせいか、風早はその後栗原の話はしない。 「着きましたよ、坊ちゃん」 少しの沈黙を経て車が止まる。 「佐野さんありがとう」 風早がにこやかにお礼を言って車から降りる。俺も小さく会釈を返して、風早について行って降りた。 『海の子水族館』と書かれた大きなプレートが掲げてある。 最近できたらしいこの水族館は魚の種類が豊富なことで有名だったが、俺は来たことがなかったので少しワクワクする。 「風早はここに来たことあるのか?」 「ううん、ないよ。でもホームページは何回も見たからどこに何があるのかは覚えたから任せて」 「お、おう・・・」 風早の様子から、俺とのデートが本当に楽しみだってことがわかって嬉しい。 「幸、これ」 風早が何やらカバンから二枚のチケットを取り出した。海の子水族館のチケットだ。 「あ、お金・・・」 チケットに書かれている値段を見て、俺は財布を取り出す。 「いいよ、俺が無理やり誘ったみたいなもんだしお金はいらないよ」 「む、無理やりって・・・」 確かに少し強引だったかも知れない。でも俺だって今日の日を楽しみにしていたのは事実だ。 「水族館も俺が勝手に決めちゃったしいいの」 「で、でも俺だって楽しみにして・・・」 風早はたまに変な顔をする。悲しそうな、寂しそうな、そんな顔。 「お、俺昨日の晩楽しみすぎてあんまり寝れなかったから隈、できた」 「・・・本当に?」 あ、表情が少し明るくなった。わかりやすい奴め。 「それに俺は別に女扱いして欲しい訳じゃないし・・・」 奢ってもらうのが嬉しくないわけではないのだ。だけど・・・。 「やば、栗原くん今日来てるんだって!!」 「え、やばくない!?見にいこ!」 「なんか雑誌の撮影らしいよ、イルカショーに特別出演だってさ!」 後ろに歩いていた女の人がキャーキャ騒いでいる。風早の表情がまた暗くなった。 「栗原が来てるの・・・?」

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