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第64話
するすると風早の手が動いて、いつものようにある箇所に触れようとする。
俺は何とか身じろいだりしながら、風早の手を避けた。
「俺あんまり栗原守の出てるドラマとか見た事ないんですよねぇ・・・」
「幸の姉ちゃんが好きだから何回か見させられたことはあるけど、俺はあんまり好きじゃなかった」
外から聞こえて来る樹と海の声に、俺は歯を食いしばり何とか声を出さないように努めた。体をまさぐることを諦めたのか、今度は風早が俺の鼻を摘んでくる。
「往生際が悪いんだから」
息ができなくなって、薄っすら口を開く俺に風早が追い打ちをかけるようにキスをしてきた。
ガコン、と風早に壁に押し付けられたせいで音が鳴り響く。鼻をつままれたままのキスじゃ満足に息も吸えなくて、俺は声が漏れているかなんて気にすることができない。
「ぅっ、はっ、・・・はっ」
唇と唇が離れた瞬間に息を吸い、また口付けられ、の繰り返し。頭が段々朦朧としてきて、視界がぼやけてくる。
「な、なんですか、今の音・・・」
樹たちが何やら騒いでいるのが遠くの方で聞こえた気がしたが、俺はキスのことしか考えられず、そのまま俺たちはキスに没頭していた。
「んっぁっ・・・・はっ」
何分経ったかわからない。やっとのことで風早が口を離してくれて、俺は久しぶりにちゃんとした空気を吸う事ができた。
息を整えようとするが上手くいかない。しゃがみこんだ俺を風早が心配そうに見つめてくる。
「大丈夫?」
「大丈夫な、わけない、だろ・・・」
息も絶え絶えにそう答える俺を見て、風早が背中を摩ってくれる。
「ごめん、幸が可愛すぎてつい」
「つい、じゃないだろっ!!絶対バレたって!ほんとに!!」
もうトイレに誰の気配もない。だが、あれは絶対バレた。自分がもはやどんな声をあげていたか覚えてもないが、絶対声は漏れていたはずだ。勘の鋭い海ならなおさらだ。
「もしかしたらお化けが出たって逃げちゃったかも知れないよ?」
「キスしてるお化けってなんだよっ!!」
「だいじょーぶ、俺を信じて」
「信じられないっ!!!」
もうっ!!と叫んで俺は個室から飛び出した。よかった、トイレには誰もいない。
「栗原は多分イルカショーのところにいるから、そこは避けながら水族館観に行こう?」
風早は何もなかったかのように笑いながらそう言った。
絶対こいつとはトイレにはいかない、そう心に決めた俺だった。
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