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第65話

「幸、まだ怒ってるの?」 ずんずんと風早の方を見ずに水族館の中を進んで行く。無視していれば少しは反省するかと思っていたが、風早の顔からはまだ反省の色が伺えない。 「ねー、幸ってば」 イルカショーは水族館に入って右手に進めば会場がある。俺たちはなるべく左側に進み、何とか人気の少ないところへ来ることができた。 「あ、触れ合いコーナーだって幸」 無視したままの俺を無視しだした風早は俺の腕をちょんちょんと突いて、看板に書かれた文字を指差した。 『ナマコ触れ合いコーナー』と書かれた看板を見つめるだけでゾワリと鳥肌が立つ。 「い、いや、いいよ・・・」 思わず無視していたのに返事をしてしまった。 別のところにいこうとした俺にクラゲコーナーはこちらという看板が目に入った。 「えー、なんでよ俺ナマコ好きだよ?」 「く、クラゲコーナー行こう!な?な?」 「幸クラゲ好きなの?」 「・・・、そ、そうだ!俺クラゲ好きだから!」 風早の腕をグイグイと引っ張って見ても一歩も動かない。 ちゃぽん、と前にある水槽から音がした。 恐る恐る目線を向けると、水槽の中に鎮座する黒いアレ。 「じゃぁちょっと触ったらクラゲコーナー行こうよ、ね?」 どうしてもアレが触りたいらしい風早は、既に腕まくりをして準備万端だ。 「ちょ、ちょっとだけな・・・」 そう答えた俺がバカだった。 * 「ぎゃぁっ!こっちくんな!持ったままこっちくんな!」 はじめのうちは一人で楽しく水槽の中のアレと遊んでいた風早だったが、そのうちアレを両手で持って俺の方へと持ってくるようになった。 触れ合いコーナーのスタッフも、イルカショーに行っているようで誰もおらず風早を注意してくれない。 俺は風早から全力で逃げながら心の中で海に助けを求めた。 「いいじゃん、可愛いよ?ほら、まこちゃんも楽しんでる」 「ま、まこちゃんって誰だよ!」 「え?ほら、この子ナマ・・・」 「その名を呼ぶな!!!どう考えてもグロいだろ!その外見・・・、しかもぶよぶよするし・・・」 頭の中にアレの姿を思い浮かべるだけで嫌だ。 アレを風早が持っているというだけで風早の手も触れない。 「それが可愛いでしょ、ぶよぶよも外見も」 風早の可愛い基準が全く理解できない・・・そんな俺だった。

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