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第66話

なめこコーナーで恐怖の体験を終えた風早は満足そうな顔をして、俺の手をとった。風早の指差す方向はクラゲコーナーだ。どうやら俺が本当にクラゲが好きなのだと思い込んでいるらしい。 「幸、じゃぁ次はクラゲ見に行こ?好きなんでしょ?」 何の疑いもなくそう問う風早に俺はただただ呆れたため息しかでなくて、そうだなと呟く。 テンションの低い俺を風早が首を傾げながら見つめていたが、やがてクラゲコーナーへと歩き出した。 クラゲコーナーは明かりが少なく暗い。神秘的な雰囲気に、俺は思わず瞬いた。ブルーライトに照らされた水槽が怪しげに揺らめいていて、何だか別世界に来てしまったみたいだ。風早も同じことを思ったようで、感心したようにほぉ、と呟いている。 「すごいねぇ、俺クラゲコーナーとか初めて来たよ」 人のいないクラゲコーナーを風早がはしゃぐように見て回る。俺もクラゲコーナーがこんなに綺麗な場所だと思ってはいなかったので、拍子抜けだ。さっきの触れ合いコーナーとなんて比べ物にならないくらいだ。 ミズクラゲと書かれた看板の前に立ち、真剣に説明を読んでいる風早の隣に行くとクラゲってセックスしないんだね、と風早が小さく言った。 「・・・は?」 「いや、なんか無性生殖と有性生殖?があるみたいで、なんかどっちもセックスじゃないっぽい」 みれば、風早の読んでいた説明はクラゲの繁殖方法だった。隣には、クラゲの育て方などクラゲについて色々詳しく書かれている。 「えっと・・・は?」 ついていけなくて、ぽかんと風早を見つめると風早がまた真剣に説明書を読みだす。 「なんか、オスの出された精子をメスが取り込むんだって、あんまり気持ちよくなさそう・・・。っていうか、無性生殖にいたってはただの分裂だよっ!?なんか楽しくないっ!!」 「楽しくないとかそういう問題なのか・・・?」 「問題だよっ!!だって好きな人とエッチできるのがどんだけ楽しいと思ってるの?クラゲは見た目は綺麗だし、神秘的だし好きだけど、次生まれ変わる時にクラゲにはなりたくないなぁ・・・」 あまりにも突拍子もないことを言い出す風早に、俺は一瞬頭が働かない。ただ、エッチできないからクラゲに生まれ変わりたくないことだけは何となく理解できた。 「へ、へぇ・・・」 「幸も次生まれ変わる時はクラゲにならないでね?」 「・・・いや、わかんねぇしそんなの」 来世でもクラゲになっても、風早はしつこく俺を追いかけてきそうだ。そう考えたら何だか面白くてぷぷ、と吹き出すと風早は不満そうな顔をしてこちらを見ていた。 「えぇー、俺クラゲになっても幸のこと追いかけるからね」 そう言って風早がまた俺の手を取った。指を絡められて、いわゆる恋人つなぎになる。周りに人がいないと思い込んでいたので、風早の手を離さずに好きにしていると、後ろからえっ、と驚いた声が聞こえてきた。 ばっとすぐに後ろを向くとそこにいたのは、驚いた表情をしつつ頬を赤らめた樹と少し暗い表情の海がいた。 「あ、お、お邪魔しました・・・?」 「ちょっ、ま、これは、や、樹っ!!!!!!!」

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