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第67話
慌てて否定しようと思って少し考える。そういえば、俺が風早と色々あった時に樹は話を聞いてくれていた。海だって俺と風早の関係を知っている。今更変に隠しても・・・、多分さっきトイレでも聞かれただろうし。
もやもやと考えていると、突然海がくしゃりと顔を歪めて走ってどこかへ行ってしまった。
「か、海先輩っ!!!」
樹がすぐに追いかけようとするが、クラゲコーナーから逃げるように走って行った海はもう姿が見えない。呆然と立ち尽くした樹の目が潤むのが見えた。
「え、あ、・・・樹?」
おそるおそる樹の名を呼ぶと、樹は先輩はうまくいってて良かったですね、と樹らしくない萎れた声が聞こえた。
「え?」
「す、すみません・・・俺変なこと言いました、気にしないでください」
今度は樹が苦しそうに顔をくしゃりと歪める。どうやら風早の読みは当たっているらしい。だが、かける声が見つからなくて右往左往していると樹もクラゲコーナーから足早に去ってしまった。
「あ、樹・・・」
「やっぱり樹くん海って人のこと好きみたいだね。海は幸のこと諦められてないみたいだけど」
ちゃんとふったの?という含みの込められた問いに、俺は思わず沈黙する。沈黙すれば、風早に疑われてしまう。俺の中ではきちんとふったつもりだ。海もそれをわかっていると思っていた。
もし、そうじゃなかったら?俺の中だけで片付いたことだったら?考え出すと止まらない。目の前でゆらゆらと揺れているクラゲのように、俺の心もフラフラとおぼつかない。
「・・・幸?ごめんね、意地悪言った」
くしゃり、と風早が俺の頭を撫でる。優しい言い方、風早は怒っていないみたいだ。それにひどく安堵した。
「ううん、俺の方こそ・・・ごめん」
何に対しての謝罪かわからない、けど謝らないといけない気がした。俺の謝罪に風早も何か感じたのか、頭を撫でる手が一瞬震える。
「幸が悪いんじゃないよ、俺がただ心配性なだけ。こんなに幸に思ってもらえて、おまけに口に出してももらったのにこれ以上何を求めろって話だよね」
ははは、と乾いた笑みを零す風早。これ以上そんな辛い笑顔を見たくなくて、俺は下を向く。
「心配しなくても、何回も言ってるけど、俺は、」
「知ってるよ、俺のこと好きなんでしょ?何回言うの?もぉ」
「なんだよっ!!!!お前のためになっ!!」
「それも知ってるよ、幸が俺のこと一番に考えてくれてるのもね」
そう言って笑った風早は、もう不安そうな笑みをしていない。ちゃんと、暖かい笑みだ。
「なぁ、風早、帰ろ」
「そうだね、早く帰ろう・・・あ、俺幸と行きたい場所あるんだよ」
ぱっと俺の手をとった風早は、もう恋人つなぎをしようとはしなかった。それはそれで少し寂しかったが、言うまい。
「どこに・・・?」
「俺がこの間調べてたところ」
風早の言葉に、俺は思案する。前に風早が調べていたところ・・・?
あ、あれか、まさか・・・。
「ホテル・・・?」
「そ、ホテルっ」
そのまま俺は風早に連れられて、水族館を出る。時間にして、三時間も経ってはいなかったが十分楽しんだ気がした。
だが、俺はクラゲコーナーにいたもう一人の人物に気づくことはなかった。
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