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第68話

水族館から徒歩数分という立地の良さで、白く塗装された外観。一目見るだけでは、そこがラブホテルとは誰も思わない。一時間もネットサーフィンをしてやっと見つけたというそのホテルを風早が自信満々に紹介する。 「見て、まだ新しくて一年も経ってないんだよ、すごくない?」 「そうだな」 「色々部屋種類があるみたいで、レビューもほぼ満点だったんだよ」 「すごいな」 「でねでね、男同士でも全然入れるみたいだし、というか普通のホテルも何部屋かあってね、そっちも人気なの」 「へぇ」 興味ないというふうに返事をしていても、一向に風早からの抗議がない。力説している風早の話の腰を折るのも何だかいたたまれて、俺はそのまま聞き流していた。 数分話し続けた風早は、満足したのかやっとホテル内へと足を踏み入れる。俺も風早についていって、その綺麗なホテルを見回した。 確かに、全部綺麗な白で統一された受付。受付の女性もみな美人で、俺たちが男同士で来ても何一つ嫌な顔をしない。 むしろ、入ってきた俺たちを見て笑顔でいらっしゃいませ、と言ってくれた。俺の方がどんな顔をしていたらいいのかわからなくて、多分俺の顔はぶさいくだったと思う。 風早はというと、何も動揺せずに受付へと向かい何やら話している。部屋を決めているようだが、少し遠くで様子を見ている俺からは何を話しているかまでは聞こえない。 少しすると、風早がこちらを向いて笑顔で手招きした。 渋々風早の元へ近寄ると、風早は手にカードキーを握っている。無事部屋を取れたみたいだった。 「ありがとうございます。ごゆっくりどうぞ」 受付嬢がまた笑顔でお辞儀した。俺はぎこちない笑みを浮かべながら頭を下げて、エレベーターへと向かった。 「すごくいい部屋取れたよ、今日空いてるみたい」 「へ、へぇ・・・」 ラブホのいい部屋ってなんなのだろう。なんて思案しながらエレベーターに入る。 六階へ向かうまでの間考えてはいたが、全く想像がつかない。そんな俺の様子を見て風早がにこりと笑った。 「何、緊張してるの?」 「き、緊張っていうか・・・、どんな部屋か気になるだけ」 「幸初めてだよね?大丈夫、そんな変なところじゃないよ」 風早は飄々としている。慣れているみたいだ、当たり前か、こんなにかっこいいんだから。 そう思って少し後悔した。考えないようにしても、風早が女性をエスコートしている姿が頭に浮かんでしまったからだ。 「・・・幸?」 黙った俺の顔を見つめる風早に、何を考えているか知られたくなくてぷい、と顔を背ける。 「ね、幸ってば」 「・・・なんでもない」 「なんでもないって顔じゃない!!」 エレベーターが六階について、足早に降りる。風早の持っているカードキーに書かれたのは六○五の文字。六○五号室を目指して歩みを進めると、焦ったように風早も走ってきた。 「幸ってばっ!!」 無言で風早の手からカードキーを奪い取り、ピッと機械音が鳴ったのを聞いてから俺はドアを開けた。 部屋の中は普通のホテルのようだった。玄関から見る限り、特に変わったところはない。風早の言う通りだ。 「幸、ねぇ幸」 後ろで不安気に俺の名前を呼ぶ風早を玄関に入れて、唇を塞いだ。 驚いたのか、開かない唇を舌でなぞってやる。すると、風早も諦めたのか口を開いて俺の舌に絡めてきた。歯列から口腔へと風早の舌が縦横無尽に動いて、快感で足がガクガクした。 立ってられなくなって、風早の首元に腕を回す。体重をかけても風早は狼狽えたりはせず、俺の腰を抱いて支えてくれる。こうして長いキスを終えて、唇を離すと風早はまた不満そうな顔をした。 「キスで誤魔化されたりはしないんだけど・・・」 「でも、よかっただろ?」 「よかったけどっ!!幸は何を気にしてたのっ!!」 肩を掴まれてグラグラと揺さぶられる。風早の必死な顔に、俺は顔を赤らめてぷいと目をそらす。 「・・・、別に、お前が他の人とラブホきたことあんのかなとか・・・」 思っただけ・・・、と語尾が小さくなっていくのを自分でも感じた。恥ずかしさで死にそうだ。 「さ、幸が俺に嫉妬・・・!?」 風早の目が見開かれて、俺の肩を掴む力が強くなった。 「うるさい・・・」 「嫉妬してくれたの?俺に?嬉しい・・・」 「だから、うっせぇっ!!」

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