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第74話

「いいなぁっ!なんで写真撮ってきてくれないのよっ!」 姉ちゃんの小言を聞き続けてもう一時間近くになる。あの日水族館に栗原が来ていたことを知っていたのはごく一部の超超超のつく栗原のファンだけだ。超超超のつく栗原のファンだけが知っていたのにあの数はすごい。 みまだに栗原が風早と書類上では兄弟という事実に驚きを隠せない。 確かに、あの二人は顔が整っている。血は繋がっていないけれど、繋がっていると言われても信じられる。 「ひ、人が多すぎて撮れなかったんだよ・・・」 「私も見たかったなぁ・・・、生の栗原守・・・」 「別に俺見たわけじゃ」 「でも同じ敷地内にいたんでしょっ!?羨ましすぎる・・・」 「は、はぁ・・・」 姉ちゃんは時々風早と同じように拗ねると唇を尖らせる。この前あの唇に・・・、って何考えてんだ俺、姉ちゃんだぞ風早じゃないんだ。 俺は少しおかしいのかもしれない。四六時中風早のことばっかり考えている。目を瞑ると頭に浮かぶのは風早の顔。しかもキス顏だっていうんだから馬鹿だ。 俺は頭に浮かんだ風早の顔を払拭して、鞄を手に持った。 「じゃぁ俺もう行くから」 「はーい、いってらっしゃい」 昨晩も風早のことを悶々と考えていたら寝れなくて早起きしてしまった。だから朝から姉ちゃんの小言を聞いていたわけだが。 姉ちゃんに風早と栗原の関係を教えたらどうなるんだろう、なんて考えながら靴を履いてドアを開けた。 いつもなら玄関先で待っている姿が見えない。少し早すぎたのかも、今日は確かにいつもより 十分早く玄関から出た。 風早の家はここからそんなに遠くない。たまには俺が迎えに行こうか、と考えていると誰かがこちらに向かってくる足音が聞こえてきた。 風早か、と顔を上げると見知らぬ男が二人。しかも、大柄で風早よりもでかいかもしれない。 そんな二人が俺のことを睨むように見つめている。 思わず後ずさって家のドアに手をかける。 「お前が桐原幸か」 何か写真を手に持つ男は、それを俺を見比べて間違いない、と呟いた。名を呼ばれた途端、寒気で腕に鳥肌が立つ。 「表札も桐原って書いてあるし間違いないですよ」 「・・・そうだな」 男二人の目線が俺から外れて、家の表札へ向く。今だ、と俺は咄嗟にドアを開いて玄関に飛び込んだ。 心臓が痛い、なんだっていうんだ。俺はあんな人から借金を借りた覚えもないし、ましてやぶ つかった記憶もない。必死に思考を巡らすが、やはりあんな人たちから恨みを買うようなことはしていない。 心臓のばくばくが治まってきた頃に、ドアスコープから外の様子を伺う。情けないことに腰が抜けてしまったので、靴箱に手をついてやっとのことで立ち上がることができた。 男は既にその場におらず、別の人が立っていた。 あ、風早だ。 そう思うより体が先に動いた。ドアを開けて、ふらふらと千鳥足になりながら風早に思わず抱きついた。 「わ、熱烈だね・・・おはよう、どうかしたの?」 突然抱きついたのに、風早はなんてことないように俺を抱きしめてくれた。 「な、なんでもない・・・おはよう」 急に恥ずかしくなって、ぱっと風早から体を離す。危ない、ここは外だ。 「そ、そう・・・?でも俺嬉しいよ」 「お、・・・おう」

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