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第76話

「基準が俺らだとおかしいだろ」 「なんでよ、こっちもあっちも男同士に変わりはないよ?」 何だか答えづらくて俺は無言で窓を閉める。風で吹かれていた前髪がやっと元の位置に戻った。 別に自分がゲイなことを悲観しているわけではない。ただ、この関係をどうしたらいいのか、何がゴールなのかがわからないのだ。 ☆ その日は姉ちゃんの誕生日だった。 頼まれていたリップを買って予約していたケーキを取りに行くために俺は風早のバスケが終わるのを待たずに学校を出た。 駅前の化粧品店までは五分とかからない。俺は帰宅する中学生に紛れてそそくさと駅前へと向かった。 「リップ、リップ・・・」 名前の難しいブランドのリップ。 名前がいつまでも覚えられなくて、俺はわざわざメモまでした。そのメモを片手に化粧品店を回る。 ここはまるで迷路だ。どこに何があるかわからなくて、俺はキョロキョロとウロウロとしていた。 至る所に鏡がある。自分の顔が写ると、酷く自分が場違いな気がして、早く帰りたくて仕方がなかった。 「何かお探しですか?」 流石に怪しまれてしまったのか、女性の店員が話しかけて来た。俺は無言でメモを見せると、女性は少しはにかんでこちらです、と案内してくれた。 「彼女さんにプレゼントですか?」 「あ、姉の誕生日プレゼントです」 「ステキな兄弟なんですね」 羨ましい、とこぼす彼女が案内してくれた先にあるのは無数のリップ。どれを選べばいいかわからなくて立ち尽くしていると、彼女が笑ってリップについて説明を始めてくれた。 「新作はこちらのクリムゾンレッドですね、こちらのワインレッドも発色がよく人気ですよ。濃い色過ぎて手が出せないとおっしゃる女性も多いですが、そんなこともないんですよね」 「あ、オレンジ系の色ならこちらがおすすめです。水分たっぷりで唇がプルプルするんですよ〜。私もこれを使っています」 「このティントもおすすめです。コンセプトが食べても落ちないなので、コップに付くこともないですし・・・。あ、でもメイク落としだとすぐ落ちるんですよね・・・不思議ですね」 なんの呪文だ、ティント?クリムゾン?なんかの化け物の名前か? 頭がパンクしそうになって無言だった俺に彼女は苦笑する。 「すみません、あんまりわかんないですよね・・・。お姉さんの写真拝見してもよろしいですか?私でよければお姉さんに似合うものを選んで差し上げますよ」 俺は彼女の言葉にすぐ携帯をとりだして、姉ちゃんの写真を見せた。彼女は姉ちゃんを一目見ただけで、うーんと唸りだしてまたイエローベースやらなんやらの呪文を呟き始めた。 女性の大変さの一面を知った気がした。 「すみません、ちょっとそこどいてくださる・・・?」 彼女が真剣にリップを選んでいるところをぼーっと見つめていると後ろから誰かに声をかけられた。 振り向くと、ヨロヨロと歩くお婆ちゃんが一人。

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