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第80話
物置の下、よく目を凝らさないと見えないが何か紙が一枚落ちている。
俺は手持ち無沙汰だったのでその紙を屈んで拾った。それは何かの名簿のようだった。女性の名前がズラリと並んでいて、顔写真や日にち、身長が書いてある。
ざっと四十人はいるだろうか。
だが、一人の女性を除いて全員大きなバツ印がついている。これはもしかしても、もしかしなくても、風早の見合い相手の一覧表ではないだろうか。
峰山風夏。一七歳。百五十六センチ。
一つだけバツ印のついていない名前。
俺と同い年だ、それにとても美人。勝てない、とは思いたくなかったけれど勝手に頭がそう思った。
「幸!幸?」
ドアの向こうから風早が俺を呼んでいる。思わずその紙を落ちていたところに置いてドアを開けた。
「・・・ここ」
風早は走って来たのか、いつもはちゃんとセットしてある髪がぐちゃぐちゃだった。額から汗も滲んでいて、息も荒い。
「幸!よかった・・・!!」
風早が俺の腕をぐいっと引っ張ってよろけた俺をそのまま風早の胸板にギュウッと抱きしめられる。
もう慣れた柔軟剤のいい香りが鼻腔をくすぐる。風早だ、と思うよりも先に体が安堵した。
「ちょ、見られる・・・っ」
あの優しかったお婆ちゃんがヒステリックになるほど風早を想っている。
こんな抱きついているとこなんか見られたら・・・。
「いいの、俺は気にしないから」
「でも・・・っ」
鹿山先輩みたいになったら?
それは俺のせいではないだろうか。
そう思っていると、やはり先ほどの女性が頭にちらついてしまう。
「ごめんね、ごめんね・・・」
だが、繰り返しそう呟く風早に俺は見合い相手の話なんか切り出せなかった。
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