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第81話

「幸先輩、・・・あの」 部活終わりに俺のところにやって来た樹は神妙な面持ちで俺を呼んだ。 「ん、どうした?」 洗っていたまな板を拭いて片付ける。タオルで手を拭いて、樹に向き直ると樹は口をつぐんだまま固まってしまった。 「えと・・・、場所変えるか?」 調理室には俺と樹と那智、横井先生もいて何故か鹿山先輩も来ていた。相変わらず横井先生と鹿山先輩はべったりしているので聞いていないとはいえ話しづらいのはわかる。 「はい・・・」 那智がきょとんとした顔で調理室から出て行く俺たちを見つめていたが、引き止めはしなかった。 顔の晴れない樹を連れ出して、俺は人のいない保健室へと向かう。保健室なら今横井先生はいないし、きっと無人のはずだ。そう思ってガラガラと保健室を開けると、そこには海がいた。 「あ、海」 なんだかちゃんと会うのは久しぶりな気がした。海は怪我をしているようで、血のついたガーゼを膝に当てている。 「幸?怪我でもしたのか?」 「あ、いや、俺・・・は」 海はまだ俺の後ろにいる樹に気づいていないみたいだ。 ・・・もしかして樹の話したいことって。ちらりと後ろを見ると、樹は俯いていて表情はわからない。 あの二人って付き合ってるのかな、風早の言葉が頭の中に反響する。 「ま、間違えた!海も気をつけろよ!」 俺はすぐさま保健室の戸を閉めて、樹の手を取って廊下を足早に歩く。 「ごめん、俺無神経だったよな・・・?」 少し歩くと人のいない階段裏が見えて来た。俺たちはそこに身を隠して、向き合う。相変わらず樹は俯いていてなにを考えているのかわからなかった。 「・・・やっぱり気づきました?」 無言の間があって、ようやく樹が口を開いた。何が、なんてとぼけなくても流石にわかる。 「海のこと、好きなのか?」 「・・・はい」 樹が真剣な表情でこちらを向いて頷いた。 「うん、そっか」 なんとなくわかってた、疑ってはいた。でもこうして自分と同じ境遇の人がいて助かったといえば樹はなんて思うだろうか。 「幸先輩って、風早先輩と・・・」 樹がそう言いかけて口籠る。もごもごと言いづらそうに何か言葉にならないものを口にする。 「・・・付き合ってるよ」

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