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第85話
「言える。別に男と付き合うことが悪いことだと俺は思ってない。あの人が選んだのは、あの人にとって都合のいいだけの女。俺の好きな人は、俺が決めるから。・・・それにもうバレてるよ、証拠なんかなくても」
風早の背中が大きい。杞憂だった。もう先程の女性なんて頭から吹き飛んでしまいそうだ。
「うるさいうるさいうるさい!!!!なんでお前だけよくて俺はだめなんだっ!!!」
「・・・幸、行こう」
腕をぐい、と掴まれて俺はそのまま風早についていく。恐る恐る後ろを振り返れば、樹のようにうずくまって涙を流す栗原がいた。
少し歩いて、学校を出る。とっくに部活の時間は過ぎていて、グラウンドには人がいない。
「風早、カバン取りに行かないと・・・」
調理室に置きっ放しだ、と呟いて校舎に戻ろうとすると無言の風早に引っ張られる。
「でも、」
こうなると、言うことを聞いてくれないことを俺は知っている。お弁当を洗わないと母親に怒られそうだったが、俺は素直に風早の言うことを聞くことにした。
家から徒歩数十分。もう行き慣れた風早の家。玄関に入ると、さっきまで無言だった風早が俺を潰すくらいの勢いで抱きついてきた。
「ちょっ・・・いたっ」
「俺、間違ってるのかな」
「何がっ」
「男同士ってそんなにダメなの?俺のしてることってばあちゃん殺すことと同じなの?」
肩元が熱い。風早の涙だということに気づくのに少し時間がかかった。
「お前さっき自分で言ってたじゃないか、恋愛は自由だって」
「それが間違ってたら?」
ず、と風早が鼻をすする。風早の背中に手を回すと、一層ぎゅうっと抱きしめられた。
「間違ってないだろ」
「ほんとに?俺、幸のこと好きでいて大丈夫なの?」
「なんでダメなんだよ、お前が好きていてもらわなきゃ・・・俺が困る」
「・・・幸。うん、ごめん!俺ちょっと弱気になってたかも」
バッと顔をあげてにこりと風早が微笑んだ。この笑みならきっと大丈夫だ。
「よしっ!!さっきまでちょっと困りそうだったさっちゃんを、俺がベッドまでエスコートしてあげよーうっ」
「いやっ、いいっ!帰るっ!!!カバンだって取りに戻りたいしっ!!」
ひょいひょいと俺の靴を脱がせ、俺の腰に手を回した風早が強引に玄関からリビング、そして風早の寝室へと連れて行く。
「佐野さんに任せたら大丈夫だから。俺は幸との愛を確かめたいから」
「この間十分確かめ合ったはずだっ!!」
「足りない足りない」
何言ってるの、と驚いた表情をした風早が一瞬真剣に俺を見つめる。
「えっと・・・なんだよ・・・」
「俺、ばあちゃんに会いに行くよ。ちゃんと話す」
「何を、」
「幸と付き合ってるからお見合いはできない、孫も見せられないってね」
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