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第86話
抗議の言葉を言う前に唇を塞がれた。器用に片手でシャツのボタンを外される。全部外す余裕がないのか、四つ外した時点でシャツを捲り上げ絆創膏のガーゼの部分に指を入れられる。
「ぁっ・・・」
快感に腰が跳ねる。あまりの気持ち良さに逃げようと身をよじると腰を風早に掴まれる。
「やっぁっ」
絆創膏越しに乳首にキスされる。それだけでも涙が出るくらい気持ちいのに、・・・外さないで。
ペリ、と乾いた音を立てて絆創膏が外れる。
だから、外さないでってば、も・・・。
先端に吸い付かれ、声が裏返ってしまって何も言えない。ポロリ、と両目から涙が零れおちる。
「ッッ・・・ぁっ」
じわぁ、とパンツの中が濡れて行くのを感じた。それでも風早がやめてくれない。
水音が鳴り響いて、先端を丁寧に舐められる。俺ははっはっ、と短く息を吐きながら延々と続く快感に耐えた。
「んっっっ、はっ、ぅ・・・」
三度目の吐精を終えて、俺は涙のせいで歪んだ視界の中風早を見つめる。
「も、やめ・・・、怖い、風早・・・」
手を伸ばして、風早の髪に手を触れるとようやく風早は口を離してくれた。
「ご、ごめん、幸・・・」
そう言って風早は俺の汚れた下肢をタオルで拭いてくれる。俺は息を整えてベッドを降りる。
変な汗をかいて気持ち悪い。ふらつきながら風呂場へと向かうと、風早が申し訳なさそうにつ
いてきた。
「幸、ごめんね」
全く、風早はいつもこうだ。ちょっと暴走して、俺が怒るとすぐしゅんとなる。
「・・・、別に怒ってない」
「じゃ、じゃぁ・・・」
ちらりと見れば、俺の許してあげるという言葉を待っている風早がいる。俺はそんなお前を・・・。
「呆れてるだけ」
ピシャリ、と音を立てて風呂場の扉を閉める。少し一人になりたかった。
いろんなことが起き過ぎて自分の頭で整理ができていない。
もうバレてる、と風早は言った。会いに行く、とも言った。嬉しいことなのに一抹の不安が消えない。風早が俺のことを好きな気持ちは知っている、知っているのに消えない。
俺は温かいシャワーを浴びながら一人悶々と考えていた。少し前まで俺だって普通に結婚して、普通に子供産んで、普通に老後を過ごすと思っていた。それが普通の俺が考える普通だ。
今では普通がわからない。
あの頃、考えていた、当たり前だと思っていたことが普通?じゃぁ、今の俺は普通じゃないのか。
いとこが生まれた時、俺のお婆ちゃんは泣いて喜んでいた。生きててよかったわ、といとこを抱えながら呟いていた。その幸せを分けることができないことになるんだ。
それに俺だってまだ高校生だ。まだ将来なんて遠い昔だと思っていたし、これから誰を好きになって行くのかなんて知らない。
あぁ、だめだ。考えれば考えるだけ悪い方向に話がまとまっていく。樹にあれだけ威張った俺
はどこに行ったんだ、風早に俺のこと好きじゃないと困る、と言った俺はどこに行ったんだ。
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