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第88話

立派な門を潜り抜け、佐野さんの後ろについて小道を歩く。道の傍に植えられている花がちゃんと手入れされていて綺麗に咲いていた。何の花なんだろう。 扉を潜ると広すぎる玄関が顔を出した。以前連れてこられた時は意識を失っていたし、ちゃんと家の中を見たのは初めてだった。 まるで映画の中の世界みたいだ。 「すご・・・」 思わず感嘆の言葉が漏れる。佐野さんが隣でくすりと笑った。 「私も初めてこちらのお屋敷に来た時はそのような反応をしましたよ」 床の隅々までピカピカで掃除が行き届いている。この家には一体何人の使用人を雇っているのだろうか。 「佐野さん、おかえりなさい!そちらの方は?」 佐野さんより少し背が低い、スーツを来た男性が玄関の奥からひょっこりと顔を出した。 「桐原幸様ですよ、坊ちゃんのご友人です」 「あぁ!坊ちゃんの!!初めまして、佐野さんと同じくこの家の使用人で、稲田景でございます。幸様、よろしくお願い致します」 深い深いお辞儀をした稲田さんは、俺の方を見 ると白く光る歯を見せて清々しい笑顔になる。 「よ、よろしくお願いします・・・」 俺も同じように、ぺこりと頭を下げて挨拶する。そんな頭下げなくてもいいんですよ、と稲田さんは慌てていたけれど気にせず深くお辞儀した。 「お祖母様は三階にいらっしゃいます」 靴を脱ぐと、すっと佐野さんに取られた。気がつく頃には俺の靴は靴箱に素早く仕舞われる。ピカピカな床の上を、こんな小汚い靴下で歩くのに少し戸惑っていたら稲田さんがスリッパをくれた。いや、スリッパも高級そうでちょっとためらったけど。 玄関の奥の扉を開くと大きな吹き抜けがあって、長い階段が並ぶ。階段の下には高級そうな壺が鎮座していて地震起きた時どうするんだろ、なんてこと考えた。 てっきり目の前の階段を使うと思ったのに、佐野さんはそのさらに奥にある部屋へと案内する。おったまげた、エレベーターだ。 ふと後ろを振り返れば、稲田さんが廊下に飾られている花瓶の水を入れ替えていた。赤いカーネーションのような花だ。これもなんの花なんだろう。 どうぞ、と佐野さんに言われて俺は恐る恐るエレベーターに足を踏み入れる。まるでデパートのエレベーターだ。大きな鏡もあって、猫がボールと戯れている絵画まで飾ってある。 うちにある絵画といえば、姉ちゃんが美術の時間にふざけて描いた自画像くらいしかない。結局飾ってないし・・・。 先程佐野さんに言われたことが頭によぎった。そういえば、二重人格って。口紅を買っていたお婆ちゃんと怒鳴っていたお婆ちゃん。どちらが本物なのだろう。 ピン、と機械音が鳴って顔を上げるとエレベーターの扉がゆっくりと開いた。眼前に広がるのは見覚えのある廊下だった。 そういえば、前に栗原に連れ去られた時ここに来た・・・。 「こちらですよ」 佐野さんに案内され、迷路のように広いお屋敷をスリッパでペタペタ歩いていく。ある扉の前で立ち止まった佐野さんは、ゆっくりとノックした。 「佐野です。幸さんを連れて来ました」

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