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第93話

「へぇぇ・・・お婆ちゃんの安心させるために、女装をねぇ・・・」 「そうだよ、だから浮気じゃない」 「へぇ、女装ねぇ」 「何回も言わなくていいだろっ!!!!」 怒鳴った後に唇を尖らすと、風早が小さく笑った。 きっと風早の頭の中で俺は超かわいい女の子みたいな格好をさせられてる。そんな顔してる、こいつ・・・。 「いいじゃん、え、いいじゃん!昔のばあちゃんの服まだいっぱい残ってるし着てみてよ!!」 あ、多分俺こいつの頭の中でお婆ちゃんの昔の服着させられてんだな、ってなんなんだ!! 「まだ俺やるって言ってないし」 「やってよ!!俺もいい提案だと思うけどなぁ〜」 「私もいい提案だと思いますよ。細身ですし、可愛らしい顔立ちですし・・・似合いますよ」 「さ、佐野さんまでっ!」 佐野さんだけは俺の味方だと思ったのに・・・。ギリギリと歯軋りして、ニヤニヤとしている風早といつも通りにっこりと微笑む佐野さんを睨みつけた。 「うんうん!そうと決まれば!」 ぐい、と風早に腕を掴まれる。突然のことでバランスを崩すと当たり前のように抱きかかえられて俺は足をバタバタさせて暴れた。 「おい!はーなーせーっ!!!」 こういう時自分の身長が恨めしい。巨人になって風早を思いっきり踏みつけるという俺の密かな夢はいつ叶うのだろう。 「まぁまぁ落ち着いて、ね?」 俺をなだめようとしているのか、風早がポンポンと俺の背中を叩く。俺を赤ちゃん扱いするな!! 「ね?じゃねぇぇ!!ねぇ!佐野さん!俺お腹すいたからクリームシチュー早く食べたいです〜〜!」 「そんなに焦らなくてもシチューはなくなりませんよ」 「もう、幸は食いしん坊だなぁ」 ははは、と二人して笑ってる。 「この悪魔!悪魔!」 佐野さんも風早に似てる。っていうか、この屋敷に住んでる人、みんな意地悪そうな顔が似てる。 そのまま俺は風早にどこかもわからない部屋へと連行されるのだった。

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