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第94話
ガチャ、とドアが開く音がした。ぼふん、と体が宙に浮いた瞬間柔らかい何かに乗せられた。スプリングが跳ねる音がして目を開くと細かい装飾が施された天井が見える。
ここ、ベッド?体を起こして周りを見渡すと小さな部屋であることがわかった。アンティーク調の机に棚。まるで人形の家だ。
風早はどこに行ったのだろう、と不思議に思っているとクローゼットの中から大量の服を持った風早が出てきた。
「うわ、何それ・・・」
「ここ、昔のばあちゃんの部屋なんだって。毎日掃除してるらしいから綺麗だし、服もいっぱいあるよ」
両手に溢れそうな程の服をベッドの上に並べていく。色とりどりのワンピースに、レースがあしらわれたゴシック調のブラウス。服からでもわかるくらいお婆ちゃんはお金持ちなんだと認識する。
「・・・えと、で?」
「どれがいい?俺的には幸の太もも好きだから丈の短めワンピースでも似合うと思うよ?」
黄色の生地に小さくピンクの花模様のワンピースを手に取った風早がどう?と俺に合わせてくる。
「だから!誰も着るなんて言ってない!」
大体派手すぎる。俺は適当に取った服を見て思う。白地に赤のチェック。似合う人なんて限られる服だ。
「あ、これ着る?羽織るだけでも羽織ってみてよ!」
無理やりそのチェックのシャツを肩にかけられて俺はもう抵抗するのをやめる。抵抗した方が変な服を着させられるに決まっているからだ。ここは大人しくフリルの付いてない服でも着て落ち着かせよう。
プチプチとボタンを留められて、風早は満足そうに頷く。
「え、可愛いんだけど。これズボンだし、ズボンも着てみてよ」
差し出されたチェックのズボンを履いていたズボンの上から履こうとしたら止められた。それは流石にダサい、と真顔で言われて俺は渋々ズボンを脱ぐ。
ウエストが何故かぴったりだ。やっぱり腹筋しようかな、なんて考えているとパシャ、と音がした。
「ねぇめちゃくちゃ可愛いよほんとにやばい」
え?と風早の方をむけば、カメラを構える彼と目が合う。カウボーイハットのような帽子も被らされる。
「もう脱ぐけど・・・」
十枚以上は撮られた気がする。ため息をついてシャツのボタンに手をかけると、今度はオレンジに大きな花柄のワンピースを渡される。
・・・これを、着ろと。
「絶対似合うから着て!お願い!一生のお願い!!」
「嫌だっ!!!!!」
風早が後ろでウィッグを持っていたなんて、俺は知らない。
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