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第101話

白米に豆腐とわかめの味噌汁。塩鮭にたくあん。日本人の朝食そのものが目の前に並んでいる。俺が美味しそうと零すと、嬉しそうに佐野さんが笑みを浮かべた。 「昨晩のクリームシチューも少し残っていますので、よろしければそちらもお出ししますよ」 「クリームシチューっ!た、食べたいです・・・っ」 結局食べ損ねてしまったクリームシチューに俺は爛々と目を輝かせた。 「幸ってクリームシチュー好きだったの?」 「き、嫌いじゃないだけだ・・・」 じぃーっとこちらを観察している風早に、俺は気まずさを感じてたくあんを口に放り込んだ。ぽりぽりと噛む度に大根の甘さとしょっぱさが口の中に広がる。 「俺は幸の作ってくれたお菓子が大好物かな」 あのゼリー美味しかったなぁ、と風早がニコニコしながら言った。サッカーの試合で、料理部の差し入れとして持って行ったイチゴのゼリーを指しているのだろう。 「まだ覚えてるんだな、あれ」 「覚えてるよ!さすがに!」 ゼリーを作っていたころの俺はまさか風早の家、しかも本家でお手伝いさんが作ったクリームシチューを食べることになるとは思ってもなかっただろう。あの時、風早とギクシャクしていて大変だった。 「幸が来てくれて俺はすごく嬉しかったんだよ、病室もそうだし、応援してくれた時もね」 「あれはもう忘れてくれ、恥ずかしいから」 こちらに近づいてくる風早を手で追いやって、俺はまたたくあんを口に放り込む。 ぽりぽり、美味しい・・・。 その時、ぷるるる、と電話が鳴った。ポケットから携帯を取り出して画面を見れば、相手は樹からだった。 「樹ってこの間体育館裏で話してた子だよね?」 風早が俺の携帯をのぞき込んでそう問うた。こくりと頷くと、出なよ、と勝手に通話ボタンをタップされる。 「あ、ちょっと」 画面が切り替わり、樹の顔が映る。ビデオ通話のようで、ひらひらと樹が手を振った。 「おはようございますっ、幸先輩っ!」 昨日の樹とはまるで別人だ。ニコニコと満面の笑みを浮かべている。 「お、おはよう・・・、お前学校は?」 「休んじゃいました、ちょっといろいろあって・・・。全部幸先輩のお陰なんです。だからすぐにお礼言いたくて・・・」 画面が樹ではなくベッドの上を映す。すやすやと寝ているのは海で、隣で風早がえっ、と素っ頓狂な声をあげた。 「海・・・?」 俺がそう首をかしげると、樹がいとおしそうに海の髪を撫でる。あの手つきには見覚えがある。風早がいつも俺の髪を撫でるのと同じ動作だ。 「そうなんです、海先輩と無事付き合うことになったというか・・・。俺が食べちゃったというか・・・」 めちゃくちゃ可愛かったんですよぉ、と気持ち悪いくらいの笑みでそうつぶやく樹に、俺はえっ、と風早と同じく素っ頓狂な声をあげた。 「食べた?食べたって、食べた?」 こちらも健全な男子高校生なのでどういう意味なのかはわかる。付き合いだしたというのは、電話が来た時から薄っすらわかってはいたが、まさか海が突っ込まれる側とは思わなかった。 「はい、食べちゃいました。なんか海先輩元気なかったんですよね・・・。慰める形でズルズルと俺が抱いちゃって・・・。もちろんはじめは俺が抱かれる気満々だったんですけど、途中であれ、可愛いってなっちゃって」 きっと樹の頭の中では昨晩の記憶が再生されているのだろう。こんな惚気聞くくらいならたくあんが食べたい。俺はすぐに携帯を切ってしまおうと思ったが、風早にそれは阻止された。 「やるねぇ、樹。俺も海が突っ込む側だと思ってたよ」 「あっ、幸先輩の彼氏さんですねっ。そうなんです、もうめちゃくちゃ可愛くて・・・」 「わかるわかる、可愛いともうギュンギュンになっちゃって止まらないよね」 「はい・・・。昨日それで海先輩に無理させちゃって今寝てるんです」 「俺も昨日幸失神させちゃったから・・・、わかるよ、その気持ち」 こいつはっ!なんてことをっ!樹に言うんだっ!! 携帯を取り返そうと手を伸ばすが、ひょいとかわされる。おいっ!と声を上げても風早は呑気に樹と話をしている。 「俺も男の人抱くっていうのが初めてだったんでどうなるかなって思ったんですけど、前立腺見つけたら早かったです」 「うんうん、幸も前立腺刺激してあげるとすぐふにゃふにゃになっちゃうよ」 「やっぱり気持ちいんですかね、今度抱いてもらおうかな・・・」 「それいいんじゃない?今度お願いしてみなよ」 聞くだけで恥ずかしい会話を繰り広げている風早に、どうにか対抗しようと風早のたくあんをぽりぽりと食べる。ぎりぃと睨むと微笑み返された。それがむかついたので、たくあんを平らげてやった。 「あっ、ちょっと俺のたくあん食べないでよ」 樹との楽しい楽しい会話が終わったのか、俺に携帯を渡してきた。空になった皿を見て風早が不服そうに言う。 「知らん、電話してるからだろ」 「まだたくあんありますよ」 冷蔵庫からタッパーを取り出した佐野さんがそう言って風早の皿にたくあんを乗せた。 「わーいっ、やったぁーっ!」 「あっ!佐野さんっ、風早をあんまり甘やかさないでくださいっ!!」

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