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第103話
「得意なものは料理で、オムライスを作るのが好きね。俺と同じ高校に通ってて、同じクラス。そこで出会って、運命感じちゃった設定にしよう。それで、んー、他何がいると思う?」
「そうですね・・・、一応幸さんの家族構成とかも確認しておいた方がいいんじゃないですか?」
「お姉ちゃんがいるんだっけ、何個上なの?」
「・・・、三つ上」
風早と佐野さんはお婆ちゃんに会うとき、口裏を合わせるために会議をしている。俺はというと、別に女装に乗り気な訳では決してないので、この会議にあんまり参加していない。
「おっけおっけ。あ、やっぱり俺たちがどれくらい仲良しかをお婆ちゃんに見せた方がいいと思うんだよね。何て呼び合ってるかとかも決めとこうかな」
「いいんじゃないですか、お互いをあだ名で呼び合うほどの仲だとお祖母様も驚かれますね」
「じゃぁ、俺はハニーって呼んで・・・。幸は俺のことダーリンとか・・・?」
「実に微笑ましいカップルです」
「あとはー、あっ!もう子供出来たっていうとかっ!!」
「既成事実を作ってしまったと?」
「そうそう、もう婚約もしちゃった、みたいな」
ここまで静かに聞いてはみたものの、もう我慢ならない。ハニーとダーリンも聞き捨てならんが、なんだ既成事実って。
「どういうことだっ!真面目にやってんのかっ!!」
立ち上がって、そう怒鳴ると風早は特に悪びれもなく頷いた。
「俺はいつでもまじめだよ。細かいところも決めた方が納得するでしょ?」
「う、う・・・ん・??」
「俺たちがラブラブすればするほどばあちゃんも喜んでくれるよ。ね?」
「はい、私もそう思います。お祖母様は坊ちゃんのそういうお姿を望んでらっしゃったんですよ」
「そ、そうなのか・・・?」
上手く丸め込まれている気がする。これでいいのか俺。
「そう。幸は俺の理想ぴったりで金輪際別れることはありませんって証明しなきゃいけないから、ね?」
「は、はぁ・・・」
戸惑い気味に頷くと俺が全てを許したみたいな雰囲気になった。
失敗した。
「ちなみに、俺的には幸の全てが理想だけど俺のばあちゃんの思考は古いから女はみんな髪を伸ばすべきって思ってるんだよね」
あえて突っ込まずに風早の話を聞いてやる。風早がダンボールから何か黒い塊を取り出してテーブルの上に置く。
「か、髪の毛・・・」
「そ、サラサラツヤツヤロングヘアーで行こうと思う」
昨夜無理やりつけられたウィッグとはまた別のものだ。どうしてこんなウィッグを持っているんだ、こいつは。
「で、やっぱり男はナチュラルメイクが好きなんだよ。だからつけまとかは付けずにほんのりピンクのアイシャドウとか付けて・・・。幸お肌スベスベだからパウダーとかはいらないかも」
何語を喋ってるんだ、こいつは。
「そうですね、薄いメイクでも十分映えると思いますよ」
「だよね?だったら別にメイク道具とか買い足さなくても家にあるやつでいっか」
二人して俺の顔をジロジロ見ながら話している。とてつもなく居心地が悪い。微妙そうな顔をしている俺の頬を風早が引っ張る。
「そんなに心配しなくても俺が完璧美少女にしてあげるからバレないバレない」
「バレるバレない以前の問題だっ!!」
ま、ここでは俺の決定権は隅に落ちている埃よりも小さい。俺がなんのなんのと反対してもまるで聞いちゃいない。
あぁもう、と大きなため息をついて背もたれに寄りかかる。なんだか疲れてきた。
「こういうのは佐野さんが上手いから・・・、こっち向いて」
ぐい、と風早に顎を掴まれてそっぽ向いていた俺の顔は佐野さんの目の前を向く。佐野さんの手には何やら筆のようなものが握られている。
「ちょっと目をつぶっていてください。すぐ終わりますから」
素直に目をつぶると、何かが瞼を撫でた気がした。ぴくりと肩を動かすと、風早にそっと肩を掴まれる。動くな、と言いたいのだろう。
くすぐったくて動きそうになる体を必死に抑え、瞼上の筆が離れるまでじっと待った。ようやく離れた、と思ったら今度はもう片方の瞼だ。
ぅ、と変な声が出る。やっと目を開けても良いというお許しが出たので俺は恐る恐る瞼を持ち上げる。
わぁ、と風早が声を漏らした。鏡がないので自分の顔を確認できない。
その後、ビューなんとかっていうハサミのようなもので睫毛をいじられ、目の淵に筆で何か線を引かれた。
姉ちゃんの化粧中を見ていないことはないのだが、興味なかったので何をしているのか知らないのだ。
眉毛も何かしらされたが何をされたのかいまいちわかってはいない。気づいたら全ての処置(?)は終わっていて、最後に仕上げと言わんばかりにウィッグを被せられた。
ああ、やっぱりウィッグは苦手だ。頭が重い。
そんな俺の心中を察したのか、風早がまた可愛いから、と謎のフォローを入れた。
いや、だからそれは別にいらないから。
「え、完璧じゃない?」
正面から風早が俺を見て言った。佐野さんもこくりこくりと二回頷く。俺には見えないのがもどかしい。一体どうなってるんだ、俺の顔。
「ほら、鏡」
手鏡を渡されて、俺は自分の顔を確認した。
いや、誰だこれ。鏡に映っている俺の顔が別人過ぎて俺じゃない。なんだったらどっかの国のおとぎ話である喋る鏡じゃないのかって。
でも、俺が横をむけば鏡の中の人も横を向くし、俺が口を開くと鏡の中の人も口を開く。やっぱり俺なんだ、と理解するのに数分かかった。
「可愛いでしょ?幸って名前も女の子っぽいしそのままでいいね」
ポンポンと頭を撫でられるが、ウィッグ越しのせいで、風早の手をあまり感じない。
別にめちゃくちゃ気持ち悪い人ではないし、俺からしても可愛いと思う。だけど、これが自分なんてやっぱりどこか変だ。
「あのワンピースは昨日汚しちゃったし、うーん、制服でいいんじゃない?」
風早がどこからか紙袋を取り出して、俺の高校の制服を取り出した。もちろん、女の子用だ。
「これ、着てみて」
押し付けられて、俺は制服を手に取る。妙な既視感があって、俺は首を傾げた。既視感があるのは普通か、俺の学校の制服だもんなぁ・・・。なんて思いながらシャツをめくって驚愕した。俺の高校の制服には指定のシャツの裏に名前が刺繍されている。
その名が、桐原だったのだ。
「これ俺の姉ちゃんの制服じゃん!!!!!」
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