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第105話
決行の時間は学校が終わる時間帯になった。なんやらまた細かい点を決めていたが、俺はあんまり聞いていなかった。それよりも、本当にお婆ちゃんをだませるのかが不安でたまらない。もしバレてしまったらどうしよう。追い出されるに決まっている。もしかしたら風早にはもう会えなくなるかもしれないのだ。
俺のその不安を風早は全く汲み取ってはくれない。何か俺が無理だから、というと彼はにこりと笑って幸は可愛いから大丈夫だよって言ってくるのだ。
違うのだ、そういう問題じゃないのだ。何度も言っているが、自分が可愛いか可愛くないかの問題は別として、男か女かが問題なのだ。ぼろをだしてしまったら?会えなくなる可能性を風早は考えていないのだろうか。それとも、会えなくなってもいいや程度に思っているのだろうか。
そんな不安に駆られながら、俺は着慣れないスカート姿のまま風早の部屋にいた。
「あんた今日学校休んだの?」そんなメールが姉ちゃんから届いている。どう返事しようか迷い続け、結局返信していない。
時刻は二時を過ぎた。あと数時間で俺はお婆ちゃんの前に姿を現すことになっている。お婆ちゃんのもう一人の人格は高頻度で出現するらしいから、今日の夕方にも出るだろうとのことだった。
「幸、落ち着いてってば。そんなに心配しなくても大丈夫だって、本当に」
不安で落ち着かず、ずっと部屋の中をうろちょろしていた俺の腕を風早がとった。隣に座れという。素直にそこへ腰かけると、俺の肩に風早が頭を乗せてきた。
「なんでそんなに不安なの?何が幸をそんなに不安にさせているの?」
「・・・大した事じゃないからいい」
「大した事じゃなかったらこんなにならないでしょ。俺に隠し事しても無駄だからね」
「なんでもないから、本当に」
「なんでもないことないでしょ・・・」
風早がそう言って不満げにため息をついた。バレたら会えなくなるかも知れないだろ、とは口が裂けても言えない。言ったら現実になってしまう気がした。
「俺、バレてもいいよ別に」
不意に風早がそう言った。
「へ?」
突然のことで、変な声が出る。風早の方を見ると、前髪のせいで顔色までは見えない。
「っていうか一回幸とのことバレてるし。佐野さんは難しいっていうけど、俺は何としてでもわからせるつもりでいるから」
「でも、バレたら・・・」
言葉に詰まった。やっぱり言えない、言いたくない。気づいたら風早が隣にいる生活が当たり前になっているのに、いなくなったらなんて、いなくなった時のことなんて考えられない。
「会えなくなるかもって?」
はっ、と風早が鼻で笑う。
「ありえないね。第一俺が幸を手放すと思う?ばあちゃんより幸の方が優先だから。なんだったら縁でも切ってやる」
前々から思ってはいたが、風早はお婆ちゃんが嫌いなんだろう。俺だって風早とのことを否定されたら悲しいし、その相手が嫌いになりそうだ。あぁぁ、考えがまとまらない。
やっぱり、お婆ちゃんを騙すしか方法はないのだろうか。
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