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第111話

じりじりとこちらに近づいてくる風早。頭なんて痛くなかったけれど、違う意味が痛くなりそうだ。 「さっきも散々弄ったのにまだ足りない?」 「だ、だからほんとなんでもなくて」 「なんでもないことないでしょ?」 こういう時の風早は静かで早口だ。気づけばまたトイレの近くまで戻っていて、がっちりと腕を捕まえられていて、さっきまで俺たちがいた一番奥の個室にまた押し込まれた。 「俺らのせいでトイレットペーパーなくなっちゃうかもね」 あ、でもまだストックあるから大丈夫かな。タンクの上に積まれたトイレットペーパーを見て、風早が笑う。それどころじゃない俺は個室の隅で何も言わずに黙っていた。 「ねぇ、三保にされた手解きって何?何されたの?ことによっては俺怒っていいよね?」 「・・・もう怒ってるし」 「怒ってないよ、俺は内緒にされるのが嫌なだけだから」 そうは言うが怒っている。眉間に皺は寄ってるし、何より声のトーンがいつもより低い。 「多分知ってると思うし・・・」 初めて体を重ねた夜、一人でお尻を解したことをほのめかすような言葉を言った気がする。もう一度それを言うなんて絶対に嫌だが、言わないとここから出してくれないだろう。俺と風早は二人とも頭痛で学校をまた休むことになってしまう。 「知ってる?ねぇますますわかんないんだけど」 頑固すぎる。知ってたけど。 これは言わなきゃ進まない。 俺は息を呑んで、口を開いた。 「鹿山先輩が、前立腺弄れってゴムとローションくれた・・・だけ」 「三保が?そんなことしたの?」 「・・・、あと弄り方」 「はーん、なるほどねぇ。あの時お尻柔らかかったもんね?幸が頑張ってくれたんだもんね?」 皺の寄っていた眉間が綺麗さっぱりなくなって、代わりにいつものニヤニヤ顔が現れる。逃がしてくれるわけもなく、風早の腕の中にすっぽり収まった俺は、気まずさを感じつつ黙ったままだ。 「あれ三保の入れ知恵だったのか、通りで積極的だなって思ったよ」 そうだ、と風早がぽんと手を叩いた。 「今度俺の前でほぐしてみてよ、見たい」 「・・・絶対嫌だ」 「やってくれるならこのままキスだけで許してあげる」 「・・・なんでだよ」 「恥ずかしい?公開オナニーだもんね?」 耳元で囁かれてぞくぞくした。そんないい声で、そんなこと言わないでくれ。まぁいいかと思ってしまうじゃないか。 「いいじゃんいいじゃん、見せてよお願いだってば。あ、俺のも見せてあげるから」 「い、いらん・・・っ」 ぶんぶんと首を振るが、風早は腕の力を緩めはしない。こいつ俺が首を縦に振らない限り本当に離さないつもりなのだ。 キンコンカンコーンとホームルーム終了のチャイムが鳴り響く。いくら教室から離れていて人気のないトイレとはいえ、人が来る危険性がある。風早ならクラスに俺との関係がバレてもいいとか思っているだろうが、俺はできれば静かに卒業したい。穏便にことを済ますにはやはり頷くしかあるまい。ここまで計算しているのだろうか。いつもいつも負けている気がしてならない。 「・・・、わかったから」 消え入りそうな声でそう呟いた。刹那、唇に温かいものを感じて俺は思わずん、と声を漏らした。舌で舌を吸い取られ、唇がお互いの唾液で濡れていく。チュプチュプといやらしい音が個室に鳴り響いて、思わず耳を塞ぎたくなった。 さっきまで風早の前で公開オナニーするかしないかの選択に迫られていたことなんて、ちょっと忘れてしまうくらい風早はキスがうまい。まぁ、俺には比較する相手もいないんだけど。 たっぷり口の中を堪能した風早の舌は、ゆっくりと離れる。はぁ、と恍惚な瞳でこちらを見る風早はエロくて直視できなかった。

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