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第112話

教室は騒がしかった。俺と風早がホームルームをサボっていたなんて誰も気づいていないような騒々しさに、首をかしげる。 「あ、お前らやっときたのか」 唯一俺たちに気づいた担任の先生がこちらに向かって歩いてくる。 何だか怒っているような表情だったので、叱られると身構えた。 なのに。 「頭痛は治ったのか〜??昨日も休んでたろ、お前らいっつも一緒にいるから風邪引いたらうつしちゃうんだろうなぁ」 担任はまんまと横井先生に騙されていた。こちらが少し焦ってしまうくらい騙されている。 心配そうに俺たちを見つめる担任にどこか罪悪感を抱いてしまう。ちらりと横目に風早の顔を伺えば、彼も少し困った顔をしていた。 「ま、しんどくなったら言えよ。無理はすんな」 バンバン、と俺たちの背中を叩いて担任はまた教卓の前に戻って行った。 「良い担任だね」 「・・・俺もそう思う」 横井先生といい、うちの担任といい優しい先生が多過ぎる。 俺たちは次の授業の用意をしながら席へと座った。 「サボリ魔おはよう〜」 前の席に座る楓がこちらを振り向いて言った。俺たちがサボリであることは完全にバレている。 「おぉ、おはよう」 楓が俺と風早の顔を見比べて何か考え込んでいる。うーん、とひとしきり唸った後彼女が口を開いた。 「あ、もしかして今日の朝の栗原守特集見てたの?」 「は?」 「特集やってたでしょ!私録画してきたの!リアルタイムで見たかったけど学校だし・・・、確かさっちゃんのお姉ちゃんもファンでしょ?」 忘れていたが、楓もバカだった。いつ俺が栗原守のファンだって言ったんだ。またちらりと風早の顔を伺えば、栗原守という単語に反応して少し眉をひそめている。 「まぁ、姉ちゃんは栗原守好きだけど・・・」 「もうほんとにかっこいいよね、どうやったらあんな顔に産まれられるんだろう・・・」 ここで同意するか否か。俺からすれば、栗原守なんてクソほどどうでも良い存在であり、むしろ嫌いの位置にいるので頷きたくない。風早も絶対怒るだろうし。栗原守かっこいいって思ってるの!?とか言われそうだ。普通にカッコいい顔はしていると思う、けど。 だけど、ここで頷かないとじゃぁ朝はなんで遅れたの?とか色々追求されそうで、俺が何かボロを出しそうで、怖い。楓にバレたら色々厄介だ。いや、でもお姫様抱っこも見られているしバレているのか。 いやいや、・・・楓はバカだし。 なんて考え込んでいると楓は何やらいそいそと携帯を取り出し、自慢げに待ち受け画面を俺に見せつける。 話を切り替えてもらえて助かった。 「この間水族館にいた栗原守!!写真撮ってもらったの!!」 栗原守の周りは人がごった返していて、楓とツーショットというよりもはや集合写真だった。 「え、すごくね」 ここはレスポンス早めに褒めておく。楓はご機嫌そうに、でしょでしょ〜と言いながら待ち受け画面を撫でている。またまたちらりと風早を見れば、退屈そうに教科書を広げていた。 「この日ね、たまたま水族館の近くに来てたから会えて・・・。もう本当に神さま、って感じで」 手を合わせながら楓がアーメンと呟いている。こうなった楓はもう止められない。止められるのは・・・。 「はい、そろそろ授業始めるぞ〜」 先生のこの一声くらいだった。

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