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第113話

昼休みになり、俺はカバンからお弁当を取り出す。いそいそと風早が俺の隣に椅子を持ってきて、彼は大きなお弁当を取り出した。 「お腹空いた〜」 「いつも思うけどお前の弁当デカイよな」 比較してみれば、一目瞭然だ。俺のお弁当の二倍近く大きなお弁当を風早はペロリと平らげる。 佐野さんが作ってくれているのだろうか。 「食べないともたないからね、幸のが小さすぎるんだよ。俺のちょっと分けてあげようか」 「え、いい、いらない」 パカリと風早がお弁当を開いた。中は牛丼、大きな肉が乗った、まさに男飯。 前言撤回、これはきっと風早が作ったお弁当だ。肉とご飯しか入っていない茶色一色のお弁当を目の前に、風早はニコニコと笑顔で手を合わせて言う。 「いただきま〜す」 俺も母親の作ってくれたお弁当を開いて手を合わせる。 「いただきます」 中はいつもと同じで卵焼きとコロッケと梅ご飯。昨日の晩御飯の野菜炒めも入っている。 「幸のお弁当はいつも美味しそうだよね」 風早が俺のお弁当を覗き込んで言った。 「そうか・・・?お前のは、なんか、男って感じのご飯だな」 「うん、冷蔵庫見たら肉しかなかったからこうなっちゃったよ。あ、幸の卵焼きちょうだい」 「あ、えーと、あの」 言いかけてから考えた。何言おうとしてんだ、俺。 待って待て、待て待て待て。 「ん?卵焼き食べちゃダメなの?」 「いや、そういうことじゃなくて」 「あー、わかった。食べさせてくれるんだ?ありがとう」 そう言って風早がパカリと大きく口を開いた。いや、そうじゃないけど、うんそうじゃないけど。心の中で否定しながら、俺は上の空で卵焼きを風早の口に入れてやる。 「恋人っぽいね、なんかこういうの」 薄く頰を染めてそんなことを言うから俺も変に意識してしまう。 「え、あ、え」 軽いパニックに陥った俺はうっかり一言、言うつもりもなかった言葉を発した。 「お弁当、作ってやろうか」 やっぱ甘い卵焼きっていいな〜、風早がそう零してゆっくり俺の方を向いた。 「つ、作ってくれるの?え?うそ!?ほんとに!?」 「・・・あ」 「嬉しすぎる、俺毎日幸の手料理食べれるの??それは贅沢すぎる、え、俺今死んでもいい・・・」 今更やっぱ嫌だ、とか言えなくて俺は曖昧に苦笑いした。 なんでそんなこと言ったんだ、俺。とはいえ、俺だって料理部な訳で。料理に関しては自信がある。母親の負担も減るし、いい機会かもしれない。そこまで考えて俺はあることを思い出した。 「そういえばいつ家来んの?」 「今日でもいいよ」 「・・・き、今日か」 急だ。来るなら早めの方がいいのか。母親が朝から不機嫌だったこともあって、あまり乗り気にはなれない。 「なんか用事あった?」 「いや、俺は別に空いてるけど」 「じゃぁ、今日にしよう?俺ご挨拶に行くね」 「ご、ご挨拶っていうか・・・」 「俺と付き合ってること知ってるの?」 「・・・わ、わかんね」 「言えそうだったら言う?」 「あ、う、うん」 こうして急遽、今日風早が家に来ることになったのだった。

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