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第118話

「ただいまーっ!って、あれ、風早くんじゃーんっ!久しぶり!!」 あの後、三人でわあわあ泣いて色々話した。母さんは俺の昔話をたくさん風早に聞かせていた。ところどころ恥ずかしい話も混じっていたけれど、風早が楽しそうに笑うから俺もいっか、と笑っていた。ソファに座って三人でお茶をしていたら、バイトから帰ってきた姉ちゃんがリビングに現れた。 「姉ちゃん、おかえり」 「あんたちゃんとモノにしたんじゃん、よかったね」 ぐしゃぐしゃとすんごい力で頭を撫でられて、髪の毛があっちこっちに跳ねる。姉ちゃんが撫でた頭はいつも何か爆発したみたいな頭になってしまう。 「お久しぶりです、果歩さん」 「やだぁ、名前呼びとか照れちゃうじゃん。何、あんたたちお母さんに話したの?」 姉ちゃんの言葉に俺は風早と目を合わせた。そのあと少し二人で笑って頷く。 「そうなのよ、付き合ってるからって幸が言いだすから驚いちゃって・・・。でもまぁ、風早くんすっごく良い子だし・・・ねぇ?幸がほんとにベタ惚れなの。こんな息子初めて見るわ」 母さんが大声で笑いながらそう言った。恥ずかしくなって母さんを睨んでも、笑うのをやめてくれない。いたたまれなくなって風早の方を見れば、すこし顔を赤くさせていた。 どうしてそこで照れるんだ。余計恥ずかしくなるからやめてくれ。 「もぉなに二人で照れちゃってぇー、可愛いんだけど」 「そうよねぇ、ほんとバカップルなんだから」 姉ちゃんと母さんがあっはっはっはと顔を合わせる。うちの女性陣はよく笑うし、声がでかい。 「もう、二人ともやめてよ・・・」 「さっちゃんよかったじゃん。前とか悩みまくってたからちょっとは心配してたのよ~」 「その話はもういいだろ・・・」 「恋に悩む弟、これはもう話聞くしかないわけじゃん」 「わかったわかったから、もう忘れて・・・」 ぶんぶんと首を振ると、姉ちゃんがあっ、と何か思い出したように声をあげた。嫌な予感しかしない。そっとリビングから出ようと立ち上がると風早に腕を引っ張られた。どこ行くの、と聞かれてトイレ、と返事する。 「あんたそういえば私の制服どうだった?」 ほらぁぁぁぁ、そんな話題をださないでくれ。 「なんか佐野?さんって人に言われたから貸したけど何に使ったの?」 「あ、いや、ほら、こいつの妹の制服が汚れちゃったというか・・・、まぁ、そんな感じ」 必死に言い訳を思いついて口に出してはみたものの、姉ちゃんは本当?と疑いの目でこちらを見てくるし、母さんに至っては何を考えているのか頬っぺたを少し赤く染めている。何を考えているんだ、本当に。 「違うでしょ、俺のばあちゃんを納得させるために着たんでしょ」 風早の言葉に、姉ちゃんと母さんが目を瞬かせる。 「俺のばあちゃん色々あって、同性愛に否定的なんです。俺の見合い相手を沢山連れて来ようとするし幸も嫉妬しちゃうからこの際幸を紹介しようと思って」 なるほど、と姉ちゃんがぽんと手を叩いた。風早には不思議な力がある。いとも簡単に人を納得させる魔法。 「じゃぁさっちゃんは風早くんのお祖母ちゃんに女の恋人として紹介したわけなんだ。私の制服を着て、ね?」 ね?と俺の方を向いて言うもんだから全力で頷いた。母さんもあぁ、と納得していたしここは一件落着・・・? 「幸の言い訳が下手すぎるんだよ。いつ俺に妹がいるって言ったの」 うっ、と俺は言葉を詰まらせて目を泳がせた。一番良い案だと思ったのに。お前のお婆ちゃんの話をしない方がいいと思ったんだよ。 「・・・うるさい」 「内緒事は苦手なんだよね、はいはいごめんね」 姉ちゃんがキラリと目を光らせた。 「そうだもんねぇ、さっちゃんすーぐ内緒内緒言うけど全然隠せてないもんねぇ〜」 全てが始まったあの日。姉ちゃんの頭の中にはくっくりと俺の姿が写っているのだろう。絆創膏を貼った、俺の姿が。 母さんだけがなんの話をしているのかわからないらしく、頭上にはてなマークを掲げていた。 「なんの話?」 「な、なんでもない・・・姉ちゃんも黙って・・・」 姉ちゃんにバレるよりも母さんにバレる方が精神的にキツイ。それを姉ちゃんもわかってくれたのか、内緒事をバラすようなことはしなかった。 「そんなにむくれないの。ごめんってば」 また姉ちゃんが俺の頭を押しつけるように豪快に撫でた。さっき跳ねていた髪がようやく落ち着いたと思ったのに。 「別にむくれてないし」 「はいはい、そうですね」 「思ってないだろっ!!」 「二人とも仲良いね」 俺たちのやり取りを眺めていた風早がぽろっとそう零した。本当ににぽろっと、まるで手に持っていた鉛筆を落としちゃった、そんな風に。 「仲良くない!!!」 「私はさっちゃんと仲良いと思ってるけどね〜」 今度は四人でわあわあと色々話をした。母さんが突然立ち上がって、この幸せな気分で料理したらきっと愛情たっぷりの美味しいご飯ができるとか言い出してキッチンへ向かった。 テーブルの上にシチューが出てきたときは俺も風早も姉ちゃんと母さんにバレないように目を合わせてクスクス笑ってしまったけれど。

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